貧困対策としての子どもの学習・生活支援事業の推進と地方自治体の対応

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タイトル別名
  • Differential Attitudes of Local Governments toward Learning and Life Support Program for Needy Children

抄録

<p>子どもの貧困対策の推進に関する法律が2014年に施行されて以降,地方自治体にはこの対策を推進することが求められるようになった。対策の推進には自治体財政,支援を担う人材や支援対象者の数等が影響するが,その状況は自治体間で大きく異なる。例えば,財政規模が小さい市町村では,対策に必要な経費の確保が課題になると考えられる。本研究は,2015年度に開始された生活困窮者自立支援制度の子どもの学習・生活支援事業に焦点を当てて,厚生労働省の資料や地方自治体での聞き取り調査等の分析をもとに,この事業の推進が自治体間でどのように異なっているのかを検討する。</p><p>子どもの学習・生活支援事業は,生活困窮者自立支援制度の任意事業の1つであり,生活保護世帯の子どもを含む生活困窮者である子どもに対する学習支援や居場所づくり,養育に関する保護者への助言,生活習慣・環境改善に関する支援を主な内容としている。実施主体は,特別区を含む市および福祉事務所を設置する町村である。福祉事務所を設置していない町村については都道府県が実施主体となり,その福祉事務所等を窓口として事業を実施する。2021年度における対象自治体の数は906であるが,任意事業であるため実施しない自治体もある。実施する場合,この事業を直営でまたは株式会社等に委託して,あるいは直営と委託の両方で実施する。さらに支援活動を,対象者を会場に集めて行う集合形式,対象者の家庭を訪問して行う訪問形式,あるいはこれらの併用により行っている。</p><p>経費の2分の1以内を国が補助することもあり,制度開始からの数年間で導入が進んだが,2019年度以降,実施する自治体数はあまり増加していない。厚生労働省「生活困窮者自立支援法等に基づく各事業の事業実績調査」によると,子どもの学習・生活支援事業の実施自治体数は,2015~2019年度の期間に301(対象自治体の33.4%)から582(同64.3%)に増加したが,その後は横ばいで推移し,2021年度に587(同64.8%)である。自治体の人口規模別にこの実施率を比較すると,人口規模が小さい市で実施率が低い。2021年度の実施率は,東京23区と政令指定都市で100.0%,中核市で96.7%であるのに対して,人口5万人未満の市では44.9%(実施したのは122市)にとどまる。運営方式にも自治体間で相違がみられる。政令指定都市では委託が90.0%,直営と委託の併用が10.0%であるのに対して,人口5万人未満の市では直営が34.4%,委託が60.7%,併用が4.9%である。</p><p>福祉事務所設置自治体を対象に日本能率協会総合研究所が2019年に実施したアンケート調査によると,子どもの学習・生活支援事業を実施していない理由(複数回答)は,人口3万人未満の自治体では「委託先を確保するのが難しい」(63.0%),「対象となる子ども自体が少ない」(58.9%),「事業の担い手(支援員)の確保が難しい」(46.6%),「活動場所の確保が難しい」(35.6%)の順である。回答自治体全体と比較すると,3万人未満の自治体では上記の項目がより高い値を示し,実施体制の問題に直面する自治体が多いことを指摘することができる。</p><p>岐阜県の場合,2021年に支援事業を実施したのは,岐阜市,多治見市,土岐市,瑞浪市の4市で,これ以外の17市は支援事業を実施していない。このなかには,ケースワーカーの専門性の不足や時間的余裕のなさ等により,体制を整えることができない市がある。一方,福祉事務所を設置していない町については,岐阜県が岐阜県社会福祉協議会に委託して実施している。したがって,困難を抱える市での事業の推進にあたっては,都道府県との連携を強めるなどの対策を講じることが求められる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526122368
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_292
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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