関東平野における気候学的観点から見たカシグネの分布

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Climatological distribution of Kashigune in Kanto Plain

抄録

<p>1. はじめに  </p><p> 関東地方にはカシの木(Quercus myrsinaefolia)だけで構成される「カシグネ」という屋敷林が存在する。カシグネは北西の季節風を防ぐ目的で設けられ、関東平野北部に多く存在する。上下の二段で構成され、間に若干の隙間が存在する。このような形状にすることで、防風効果を高め、管理もしやすくなる。一方、矢澤(1936)の研究では、「カシグネ」という記述こそないものの、カシグネと思われる写真が存在する。この写真は東京都練馬付近で撮影されたものであり、平野北部のものとは形状が異なる。また、カシグネに関する先行研究は殆ど見当たらず、いずれの研究も対象地域は群馬県内の1市町村や、群馬県と埼玉県との県境付近を対象としており、関東平野全体を対象とした研究は見当たらなかった。本研究では空中写真から分布を判読し、約1割について現地調査を行い、55軒でカシグネの利用目的や呼称に関するヒアリングを行うことができた。また、分布の地域差をAMeDASデータを用い、気候学的な観点から調査した。</p><p> 2. カシグネの分布  </p><p> Googleマップの空中写真を用い、2021年5月~2022年8月の期間にカシグネの位置、設置している家屋に対する方向を判読した。対象範囲は北緯36度33分40.95秒から北緯35度30分8.04秒,東経138度44分28.69秒から東経140度52分4.65秒である。表1に各県ごとのカシグネの個数、設置している軒数を示す。家屋が密接しており、方位が判別できなかった地点は11軒である。方位に関して、最も多いのは「西」であり、次いで「北」が多かった。最も少ないのは「南東」であった。自治体ごとのカシグネの個数では表1の示すように群馬県で最も多く、次いで埼玉県に多く分布していた。また、神奈川県ではカシグネを見つける事ができなかった。 </p><p> 図1にカシグネの位置を示した。群馬県や群馬県と埼玉県の県境、茨城県西部で多く分布していることがわかる。一方、茨城県やちば千葉県の沿岸部でカシグネが減少する理由として、樫の木が潮風に弱いことが要因であると考えられる。 </p><p> 3. カシグネと風との関係性  </p><p> カシグネの設置方向の観点から、吹走域内外のそれぞれのカシグネの数を母数とし、西から北方向と東から南方向の割合を求めた。空っ風の吹走域内では、約9割が家屋の西から北方向に設置されていた。東から南方向は約1割であった。吹走域外では西から北方向が約8割であった。東から南方向は約2割であった。  </p><p> カシグネの利用目的に関するヒアリングの結果、吹走域内では冬季の風を防ぐ目的の割合が高く、吹走域外では、夏季の風を防ぐ目的の割合が高かった。また、防火の利用目的の割合は空っ風の吹走域内外で大きな差はなく、地点に関わらず、カシグネに防火の利用目的があることが分かった。</p><p> 以上のことから、カシグネの設置方向は各地の季節風の影響を受けているといえる。また、千葉県内で行ったヒアリングの結果、通年での防風の目的があり、特に、冬季の防風の対象は「やちぼこり」であった。冬季の風と言えども、空っ風のみではなく、地域によって多様性があることが明らかとなった。  また、本研究を通じ、カシグネには2つのタイプがあることが分かった。1つは上下の2段構成で、上部がシラカシ、下部が別種の植物や石塀を設けたものである。もう1つのタイプは上部は枝葉が茂るが、下部は空いている形状である。空中写真からの判別では垂直方向の形状まで把握することはできない。この2つのタイプの移行帯を把握するためには、全ての地点に赴き、形状を把握する必要があると考えられる</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390858619526146432
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_32
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ