東広島市における介護人材確保の現状と課題

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  • Current Status and Problems of Ensuring Care Workers in Higashihiroshima City

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抄録

我が国の介護を取り巻く現状は非常に厳しい。内閣府(2020)によると、我が国の高齢化率は28.4%であり、2036年には33.3%に達すると推計している。厚生労働省(2018)「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」によると、2016年度の介護職員は約190万人であるが、2020年度末には約216万人、2025年度末には約245万人が必要であることが示されている。人口減少社会である我が国は、現状においても、そして将来においてはますます介護人材不足の状況が深刻になることがうかがわれる。介護人材不足の原因を、山井(2009)は少子高齢化が進み、増え続ける要介護者に介護人材の供給が追いついていないことを指摘し、近年の介護サービスの利用者の急激な増加が、最大の介護人材不足の原因であるとしている。介護職員が減少しているのではなく、むしろ増加しているものの、高齢化が進展する中、需要に対して供給ができていないということである。こうした介護人材不足については供給の視点で見ると、各事業所単位で因数分解すれば、採用と離職に分けられるものと考える。すなわち、各事業所において安定的に採用が行われ、離職がなければ、供給が安定化し、これによって需要は満たされていくはずである。この視点から、我が国の事業所における離職の状況を見てみる。介護サービスに従事する従業員(介護職員及び訪問介護員)の離職率は、公益財団法人介護労働安定センター(2020)の「令和元年度介護労働実態調査」によると15.4%であった。全産業での離職率は厚生労働省(2020)の「令和元年雇用動向調査結果の概況」では15.6%であり、離職率は全産業と比較してもほぼ同率であり、むしろ介護サービスに従事する従業員が若干低くなっている。介護人材の不足は、離職率の高さも一因として考えられるが、公益財団法人介護労働安定センター(2020)「令和元年度介護労働実態調査」によると、不足の理由として、「採用が困難である」と回答した事業所の割合が90.0%に登り、「離職率が高い」と答えた割合の18.4%を大きく上回っている。こうしたことから、各事業所では、離職の問題もあるが、介護人材の採用の困難さが浮き彫りとなっている。 広島県においては、介護サービスに従事する従業員(介護職員及び訪問介護員)の離職率は15.4%であり、採用率は19.3%であった。これを経年的にみると、採用率は年々低下しているが、離職率は大概ね横ばいであり、職員の増加率は年々低下していることが分かる。このような現状を受け、東広島市では「東広島市介護保険に関するサービス事業者アンケート調査結果報告書」(2020)においてサービス事業所における資格保有者の過不足感について調査を行っており、この中では「大いに不足」「不足」「やや不足」と感じる割合を合わせると、「介護福祉士」で53.0%と他の有資格者と比較して最も高くなっている。さらに、「一定の資格を持つ人材の確保が難しいこと」「新規学卒者の確保が難しいこと」、また「夜間や朝夕など人材の確保が難しい時間があること」などを重要課題として感じており、これらの項目をあげた事業所は、いずれも3割を超えている。 東広島市では、介護人材確保について調査以前より喫緊の課題として捉えており、その課題解決のために、2016年3月に、介護職員初任者研修の実施や介護福祉士国家試験に向けて学修することが可能な福祉科を設置している広島県立黒瀬高等学校、および福祉系学科を有する本学と三者による「福祉分野における人材育成事業に関する包括連携協定」を締結し、連携事業に着手している。この三者連携の具体的な連携内容としては、「福祉の領域で活躍する人材の育成及び地域への就業の促進に関すること」「福祉分野を中心とした交流事業及び地域づくり・まちづくりの推進に関すること」「市民に向けた福祉理解の促進に関すること、及びこれらの事項に関する各種情報の相互提供及び広報に関すること」「その他相互に連携協力することが必要と認められること」としており、これまで、市民に向けた福祉理解の促進のために福祉講演会を開催することなどを進めてきた。しかしながら、それ以外の内容については、これまで具体的な活動に繋がっていなかったことが課題として挙げられていた。そのような中、2021年度から始まる東広島市の「第8期介護保険事業計画」の実施に併せて、具体的な介護人材の確保について目標値を定めることとなり、東広島市における介護事業所の現状について把握することを目的として、本調査の実施に至った。

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