歯科矯正治療における力学刺激と骨リモデリング

  • 小野 岳人
    東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Bone remodeling induced by mechanical force during orthodontic treatment

抄録

<p>頭蓋骨は,体の数分の一程度の大きさしかないが,20を超えるパーツからなる人体で最も複雑な骨構造である.この小さな部分には,口を動かすための顎関節や食餌摂取に重要な歯などの特徴的かつ重要な要素が密集している.骨組織は巨視的に見ると変化に乏しい組織であるが,微視的に見ると骨芽細胞と破骨細胞による形成と吸収(リモデリング)が起きている.骨の形成と吸収のバランスは,様々な内的および外的因子の影響を受ける.力学刺激は骨リモデリングの制御因子の一つである.頭蓋骨,特に下顎骨には,咀嚼や咬合に際して咀嚼筋の力が作用する.この力は顎骨の成長方向や成長量に影響することがわかっている.また,歯科矯正治療で歯を目的の位置に移動させる際には,歯を植立させている骨(歯槽骨)で骨リモデリングが起きている.現象レベルでは,力と顎骨や歯槽骨のリモデリングを制御することは古くから知られていたものの,その細胞・分子メカニズムは長らく不明であった.骨構成細胞のひとつである骨細胞は,骨に加わる力を感知するメカノセンサー機能を有する.骨に加わった力は,細胞骨格やイオンチャネルなどを介して骨細胞内で生化学的シグナルを誘導する.その結果,骨細胞が産生するSclerostin,Dkk-1,IGF-1,RANKLなどのサイトカイン発現量が変化する.近年,顎骨の成長や歯科矯正治療における歯の移動にも骨細胞とそれに由来するサイトカインが重要であることが明らかになってきた.これまでの歯科矯正治療は力学的なアプローチに大きく依存してきたが,今後はこれらの細胞やサイトカインを標的とした薬物療法などを併用することにより,治療成績が向上することが期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 158 (3), 258-262, 2023-05-01

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (14)*注記

もっと見る

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ