<論文>1930年代後半の和紙漉場調査と寿岳文章

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タイトル別名
  • <Articles>Research on W ashi Paper Mills in the Late 1930s and J ugaku Bunshō
  • 1930年代後半の和紙漉場調査と寿岳文章
  • 1930ネンダイ コウハン ノ ワシロクジョウ チョウサ ト ジュダケ ブンショウ

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抄録

寿岳文章(1900-92)は,関西学院高等学部や京都帝国大学文学部選科で学び,英国詩人ウィリアム・ブレイクの研究やダンテ『神曲』の研究で知られる英文学者,書誌学者である。妻の静子も文筆家であり,夫妻は1933年に京都郊外の西向日町住宅地に居宅向日庵を新築し,そこへ転居する前後から夫妻協力して私版の書物の制作をはじめる。やがて向日庵を拠点としてはじめたのが,北海道を除く本州,四国,九州の和紙漉場調査であった。紙業調査は,寿岳がかねてより師事する言語学者新村出の勧めによるもので,帝国学士院の推薦により,有栖川宮記念学術奨励金を得て実現した。1937年10月から1940年3月までの間に,15回の旅行で96ヵ町村の漉場を実地に訪れている。調査計画の作成と実施には,民藝同人として親交のあった内閣統計局労働課長水谷良一の協力を得た。調査旅行の多くに妻静子が同行し,旅先の風景や紙漉村の描写は静子が,紙漉きに関する専門的な記述は文章が担当し,日々の調査記録が作成された。調査地では文章自ら写真をとり,紙を収集し持ち帰った。紙漉きの沿革や統計資料も集め,実地調査と併行して行われた文献調査の成果と合わせて,紙業調査資料としてまとめてファイルに整理された。漉場調査の成果については,寿岳は調査期間中からの早い段階から,既調査地について『工藝』や『和紙研究』などに論考を発表している。調査の集大成が,私版の向日庵本として制作した文章・静子共著『紙漉村旅日記』である。造本で評価が高いが,訪れた多くの紙漉場ごとに整理された調査項目に従い記述され,紙業調査資料に基づく統計なども含めた科学的な内容を持つ。寿岳はその著作で,化学材料を使い効率化を図る当時流行の改良漉を繰り返し批判する。紙を工藝の視点からみる寿岳は,まざりけない材料で古法を守り漉かれる紙を評価するが,産業としての製紙業とは開きがある。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 120 179-204, 2023-02-28

    京都大學人文科學研究所

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