透析導入の原因疾患が身体機能に及ぼす影響-糖尿病性腎症患者の特徴-

DOI
  • 松島 一誠
    医療法人清生会 谷口病院 リハビリテーション科
  • 前田 夏季
    医療法人清生会 谷口病院 リハビリテーション科
  • 石井 竜幸
    医療法人清生会 谷口病院 リハビリテーション科
  • 冨田 健一
    医療法人清生会 谷口病院 リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>本邦の血液透析導入の原因疾患(透析原疾患)のうち、最大数は糖尿病性腎症であり全体の約4割を占めている.透析原疾患が糖尿病である患者の実態を調査した先行研究には,生命予後,合併症発生率,心機能,心理的特徴など種々の見地からの報告があるが,身体機能について調査した報告は少ない.以上より本研究では,透析原疾患が糖尿病である患者と他疾患である患者の身体機能を評価・比較を行い,透析原疾患が糖尿病である患者の身体機能の維持対策について検討したので報告する.</p><p>【方法】</p><p>対象は独歩により通院可能な外来透析患者41名.対象の選定にあたり認知症・失語症・運動麻痺・疼痛等がある者は除外した.対象のうち透析原疾患が糖尿病性腎症である男性7名(年齢67.1±3.1歳)女性4名(年齢69.5±11.7歳)の計11名を糖尿群,透析原疾患が糖尿病性腎症以外の男性12名(年齢66.1±9.7歳),女性18名(年齢66.5±12.1歳)の計30名を非糖尿群として,各群における運動機能,呼吸機能,嚥下機能,体組成を評価した.運動機能では片脚立位保持時間(片脚立位),Short Physical Performance Battery(SPPB),3m Timed Up and Go test(TUG),5m歩行時間,体重支持指数(WBI),握力を評価した.呼吸機能は,Vitalograph社製ハイチェッカーを用いて,1秒率,肺年齢を評価した.嚥下機能では反復唾液嚥下試験を施行した.体組成はインボディ社製InBodyS20を用いて骨格筋量を,東洋メディック社製DTX-200を用いて骨密度を調査した.統計処理はMann-Whitney’s Utestを用いて糖尿群,非糖尿群における各項目の平均値を比較した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>WBIでは糖尿群は0.3±0.1,非糖尿群は0.4±0.1,片脚立位は糖尿群で4.8±4.3秒,非糖尿群で26.1±19.4秒,SPPBでは糖尿群は8.2±3.7点,非糖尿群は11.1±1.6点であり,糖尿群は非糖尿群と比較し有意に低値を示し,TUGでは糖尿群は13.7±8.5秒,非糖尿群は8.0±2.8秒であり,糖尿群は非糖尿群と比較し有意に高値を示した.また,糖尿群のWBI,片脚立位,TUGの平均値は歩行の安全性を示す基準値以下であった.呼吸機能では2群間に差は認めなかったが,肺年齢では糖尿群で84.6±12.3歳,非糖尿群で82.7±13.4歳と両群共に平均年齢より高齢であった.嚥下機能,体組成では2群間に差は認めなかった.</p><p>【結論】</p><p>糖尿群は非糖尿群と比較し,下肢筋力・立位バランス能力が有意に低下していた.糖尿群では,腎臓病特有の合併症に糖尿病由来の合併症が高頻度に重複している可能性が考えられ,透析原疾患が糖尿病である症例には,透析導入時より下肢筋力・立位バランスの低下に対する取り組みや転倒への注意喚起が必要であると考えられた.また肺年齢では両群ともに実年齢から15歳以上も早期老化しており,透析患者は原疾患に関係なく呼吸機能の低下を予防する対策が必要であると考えられた.</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>研究を実施するにあたり、ヘルシンキ条約に基づき本研究の主旨と個人情報の管理について十分に説明するとともに、いかなる時でも辞退できる旨について説明を行い、書面にて同意を得た上で実施した。</p>

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