円偏光で誘起するトポロジカル超伝導の理論――非平衡での強相関効果

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タイトル別名
  • How Can We Theoretically Induce Topological Superconductivity with Circularly-Polarized Light―A Strong Correlation Effect in Nonequilibrium

抄録

<p>物質の量子相や物性を制御する新しい手段として光照射が注目を集めている.光照射のもとでは系は必然的に非平衡状態になり,従来の平衡での物性では想起し難い様々な新奇物性が現れ得る.一般にこうした非平衡系の取り扱いは難しいが,レーザーを当てた場合には,時間に関して周期的な変調をハミルトニアンに与えるので,フロッケ理論と呼ばれる周期的変調を持つ線形微分方程式の一般論を適用することにより見通しのよい解析が行えることが知られている.</p><p>特に,円偏光レーザーを用いると系の時間反転対称性を陽に破ることが可能であり,従来の物質設計が元素や結晶構造に関わったのとは対照的に“時間軸上の設計”となり,これまで実現が難しいと考えられてきた新奇量子相を実現させようという試みが精力的に探索されている.時間反転対称性は非自明なトポロジカル相の実現において重要な役割を果たすが,実際,光によってトポロジカル相転移を制御できることが,グラフェンを円偏光によってトポロジカル絶縁体に相転移させる理論提案とその実験的実現を皮切りに明らかにされてきている.</p><p>超伝導体においては,とりわけトポロジカル超伝導が新奇量子相の中でも基礎応用の両面から強く興味を持たれている物質相であり,光を用いたトポロジー制御はその実現手段の有力候補に思われる.しかし,超伝導のギャップ関数は電荷中性で電磁場と直接結合しないために,光の電場によって超伝導のトポロジーを制御しようという試みは常伝導状態のトポロジーの制御に比べるとずっと非自明な問題であることがわかってきた.そのような事情のために,これまでの研究では超伝導ギャップ関数の構造は変化させず,常伝導状態のバンド構造を光によって変調させるアプローチが主に考案されてきた.</p><p>ここで新たな観点として,強相関物質を光で駆動する対象に選ぶことで,ベースとなるバンド構造だけでなく電子やスピンに働く相互作用をも制御する路が新たな可能性として興味深い.本研究では,光によるトポロジー制御と光による多体相互作用制御を融合させ,超伝導の実効的ペアリング相互作用を変調することでトポロジカル超伝導を実現するという新しいアプローチを提案した.</p><p>そこでは,強相関効果を考慮してはじめて現れる時間反転対称性の破れた相互作用が円偏光照射された斥力ハバード模型には存在し,クーパー対形成の起源となる反強磁性的なスピン相互作用に加えて電荷やスピンのカイラルな相互作用がペアリングに寄与することを明らかにした.平衡で斥力ハバード模型で記述されるd波超伝導をレーザーで駆動して,カイラル相互作用発生のもとでどのように変化するかを調べると,カイラル相互作用は超伝導相関を持つボンド間の相対的位相にひねりを与え,この効果によって通常のd波超伝導がd+id波という“非平衡誘起トポロジカル超伝導”に転換し得ることがわかった.必要な電場強度等を見積もると,フロッケ状態と斥力相互作用の間の一種の共鳴を使えば十分現実的であることが期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 78 (7), 404-409, 2023-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390859616464917504
  • DOI
    10.11316/butsuri.78.7_404
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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