外傷性嗅覚障害による刺激性異嗅症が約5年経過した後に回復した症例

書誌事項

タイトル別名
  • A Case of Post-traumatic Parosmia that Resolved after Five Years

この論文をさがす

抄録

<p>外傷性嗅覚障害は一般的に予後不良とされ,改善率は約10–40%と幅がある。また観察期間に関して長期予後に関しての報告は少なく,加えて経過中に異嗅症を伴うことが多いとされている。異嗅症はQOL低下やうつ病発症に関連するとの報告があり正しく評価することが重要であるが,基準嗅力検査(T&T)では反映されず,評価が難しい。</p><p>今回我々は,外傷性嗅覚障害と診断され,初診時の嗅覚脱失が嗅覚検査上は1年で治癒に至るも,刺激性異嗅症が残存し,5年を経て自覚的な刺激性異嗅症症状が消失した症例を経験したので報告する。症例は41歳女性,2 mほどの高さの塀から転落して右後頭部を受傷した。受傷数日後より嗅覚低下を自覚したため当院当科を受診し,静脈性嗅覚検査,T&Tで嗅覚脱失の診断となった。その後T&T,オープンエッセンス(OE),Visual Analogue Scale(VAS),日常のにおいアンケート(SAOQ)による評価と,嗅覚刺激を指導して経過観察を行った。受傷約1年後のT&Tで治癒の判定となったがVAS,SAOQでは改善を認めず,刺激性異嗅症症状が残存したが,受傷約5年後には刺激性異嗅症症状が消失し,OE,VAS,SAOQも改善を認めた。</p><p>異嗅症をはじめとした質的嗅覚障害は,量的嗅覚障害とは異なり嗅覚検査での評価が難しいが,異嗅症を訴える患者のQOL低下は大きい。本症例の様に,量的嗅覚障害は治癒したが刺激性異嗅症をはじめとした質的嗅覚障害の残存する症例では,嗅覚同定能検査や,VASやSAOQを併用することが自覚症状を反映した診療の一助となり得る。また外傷後に出現する異嗅症については,長期的な変化を遂げることがあることを念頭に診療に当たるべきであると考える。</p>

収録刊行物

参考文献 (13)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ