2011年東北沖津波の泥質・有機質津波堆積物

書誌事項

タイトル別名
  • Characteristics of the 2011 Muddy and Organic-rich Tsunami Deposits in the Tohoku Region: An Overview
  • ─東北地方で見られた特徴─

この論文をさがす

抄録

<p> 本論文では,2011年東北沖津波により東北地方の陸上に形成された堆積物のなかでもとくに,砂質津波堆積物を覆う泥層(= mud cap)と砂質津波堆積物の堆積限界よりも内陸に堆積した泥質津波堆積物の堆積学的,地球化学的,鉱物学的そして微古生物学的特徴を総括した。この論文は,仙台平野で津波直後および津波発生後2-3年以内に行われた調査と,青森で津波発生から7-9年後に行われた調査から得られた知見に基づいている。地球化学的な指標は広範囲にわたって検討され,泥質堆積物が津波由来であることを認定することができた。また,さまざまなプロキシから,泥質津波堆積物のほとんどが侵食された水田や森林の土壌,植生を起源としており,津波によって内陸に運ばれたことが示された。調査の結果,津波が2.5 km以上内陸に浸水した地域では視認可能な砂質堆積物は60-80%程度までしか広がっていないのに対し,泥質堆積物は津波浸水限界の最大98%まで広がっていたことが明らかになった。このことは津波リスク評価にとって重要な意味をもつ。なぜなら,砂質津波堆積物に基づき津波浸水範囲を決めてしまうと,津波やそれを生起した地震の規模を過小評価してしまうためである。水溶性の海洋指標は時間経過によって変化を受けやすいが,有機物に富む微細な堆積物中では保存性が高い可能性がある。最近の研究で,生物由来の有機化合物はより高い保存性をもつことがわかってきており,堆積学的に明確な痕跡がない場合でも,有機化合物が津波浸水限界のマーカーとして利用できる可能性が示されている。しかし,泥質・有機質津波堆積物は粒径が小さいことや層が薄いために識別が難しく,依然として技術的課題を考えなければならない。</p>

収録刊行物

  • 地学雑誌

    地学雑誌 132 (4), 341-352, 2023-08-25

    公益社団法人 東京地学協会

被引用文献 (2)*注記

もっと見る

参考文献 (21)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ