明治四三‐四四(一九一〇‐一九一一)年の『東京朝日新聞』連載記事「時代の家屋」に見られる住宅間取りについて -わが国戦前期の中流住宅勃興期における住宅に関する一考察-

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タイトル別名
  • On the Plan of the Houses That Was Serialized in the Newspaper at the End of the Meiji Era

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抄録

本稿は、明治四三(一九一〇)年一一月八日から翌年七月一六日まで、『東京朝日新聞』紙上で三六回にわたって連載された「時代の家屋 中流紳士邸宅間取図」を主資料とし、明治末期のわが国中流住宅の間取りの特徴について論じたものである。この時期は、近代日本住宅史研究では、上流層の住宅で積極的に行われていた洋風化が、中流層の住宅にも浸透していく重要な時期であり、戦前期を代表する中流層の新しい住宅様式「中廊下形住宅」の誕生期と捉えられている。この中廊下形住宅は、①移動のための廊下を建物中央部に配し、住宅内の動線を確立する、②玄関脇にイス座式の洋風応接室を備える、という二つの顕著な特徴を備えている。しかしながら、この時期の住宅例、とりわけ、その特徴を判読できる間取りの事例は極めて少なく、そのため、重要な時期と位置付けられながらも、具体的な資料に基づいた検証研究は極めて少ないのが実情である。そこで、本稿では、連載記事の概要、記事を担当した建築家古宇田實について、ならびに、記事の中で紹介された間取り三四例の規模や建設費などの概要の紹介とともに、新しい住宅の特徴といわれる〝廊下〟と〝洋間の応接室〟の存在の有無に着目しながら、間取りの分析を行った。その結果、掲載された間取りでは、廊下は積極的に取り入れられていたものが多く、また、廊下のない事例では改良案として廊下を取り入れることが奨励されるなど、廊下が重視されていた傾向を明らかにした。一方、洋室を備えた事例は極めて少なく、玄関脇に洋室を備えた事例はわずか二例と極めて少なく、起居形式の洋風化はまだほとんど浸透していなかったことが窺えた。なお、玄関脇に和室の応接間を備える事例が多数見られることから、玄関脇に洋室を構える形式の前段として和室の応接間を備える形式の存在が窺えた。この点の解明は今後の課題といえる。

収録刊行物

  • 常民文化研究

    常民文化研究 1 (2022) 3-30,i-, 2023-03-30

    神奈川大学日本常民文化研究所

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