日本ワインブーム下の長野県における小規模ワイナリーの急増とその意義

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  • Rapid increase of small wineries in Nagano Prefecture under the Japan wine boom and the significance

抄録

<p>1.はじめに</p><p> わが国のワイン消費は、赤ワイン人気に牽引された第6次ブーム(1997~98年)以降は長らく低迷していたが、2012年からの第7次ブームの到来で過去最高を更新し、国内製造量も高水準で推移している。第7次ブームの発生には様々な要因があるが、その1つに日本ワインの消費拡大がある。日本ワインは、国産ぶどうを100%使用して国内で製造されたワインを指し、それ故に多様な経済波及効果をもたらしている。農業面では醸造用ぶどうの栽培を刺激し、その一部は耕作放棄地の再生に繋がっている。工業面では雇用拡大と就業機会の多様化に結び付くが、ワイナリーの創業者の中には農村部へのIターン者も含まれている。また、ワイナリーの創業が相次いだ地域では地元産ワインを扱う小売店やレストランが増加し、観光資源としてイベントや工場見学ツアーも企画されている。</p><p> このように、日本ワインブームは人口流入や農業の6次産業化という点でも注目を集めているが、その担い手はどのような存在なのか。また、経営面で既存のワイナリーとどのように異なるのか。本研究では、長野県で2000年代に新規参入した小規模ワイナリーを事例に、その増加がもたらした経営上の意義の一端を明らかにする。</p><p></p><p>2.長野県のワイン産業の地位と小規模ワイナリー</p><p> 長野県のワイン生産量の全国シェアは約3%に過ぎないが、日本ワインに限定すれば23%(山梨県に次いで2位)に高まる(2022年,国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」)。ワイナリー数も、2010年代に小規模ワイナリーの参入が相次いだ結果、今では山梨県に次いで多い。</p><p> このような小規模ワイナリーの増加要因としては、長野県が2013年に「信州ワインバレー構想」を掲げて、醸造免許取得に必要な最低製造数量基準が6Klから2Klに下がる「ワイン特区」の認定地域の拡大を図ったことや、新規参入者への開業支援(栽培・醸造の技術指導、農地の斡旋、ワイナリー建設への資金援助など)を行ったことが挙げられるが、これに加えて東御市や塩尻市でワイナリー開業希望者にぶどう栽培・ワイン醸造・ワイナリー経営のノウハウを教えるアカデミーが開講され、全国から受講生が集まってきたことも大きい。このため、長野県の小規模ワイナリーは両市とその周辺自治体に多い。</p><p></p><p>3.小規模ワイナリーの経営実態</p><p> 日本ワインブーム下で創業した長野県の小規模ワイナリーについては、既に多くの研究実績がある。そこでは、経営者の多くは域外からの移住者であること、原料ぶどうの栽培地として耕作放棄地の斡旋を受けていること、高価格帯のワイン醸造が中心で主な販路はワイナリーでの直売やネット販売、県内の小売店やレストランであること、アカデミー出身者などのネットワークが強く労働力の融通も行われていること等が指摘されている。</p><p> では、コロナ禍を経た現在、その経営は軌道に乗り、成長しているのか。本研究では、2000年以降に創業した小規模ワイナリー53社にアンケート調査を実施し、28社から回答を得た。その結果、醸造量では特区適応で参入した16社のうち5社で現在は6Klを超えていること。原料ぶどうの栽培面積は創業時の1社平均53aから268aに拡大し、かつ元荒廃地の占める割合は創業時の38%から54%に高まっていることが明らかになった。また、原料ぶどうの自給率は、90%以上が28社中16社あったが、50%未満も7社あった。栽培品種については、創業時も現在もメルローとシャルドネが中心だが、28社の延べ品種数では創業時の12種から現在の24種へと多様化が進んでいる。ただし、生食兼用種は2種しかなく、専用種のブドウを原料としたこだわりのワインづくりを指向しているといえる。</p><p></p><p>4.おわりに</p><p> 以上のように、長野県の小規模ワイナリーの多くは着実に成長しており、それが耕作放棄地の再生にも繋がっている。また、ワイン造りでは専用種を原料としている点に特徴があると言えそうだが、この点については発表当日に大手ワイナリーの経営と比較しながら明らかにしたい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390860553711798144
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_32
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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