島嶼観光の成長と観光資源の形成に関する研究

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タイトル別名
  • A Study on the Growth of Island Tourism and Tourism Resource Development
  • A Case Study of Experiential Tourism in Chang Island, China
  • 中国・長島の体験型観光を例として

抄録

<p>1.研究背景と目的</p><p> 島嶼地域は海洋性,遠隔性,狭小性という地理的特性を持ち,これらは経済的特性である環海性,孤立性,分断性につながっている。これらの特性は,経済発展における資源と市場の狭小性,市場規模の経済性不足,人口の高い流動性,脆弱な生態系,高いコスト経済の環境を生み出している(嘉数2017;McCall1994)。</p><p> 中国においては,漁家を主要な市場運営者とし,漁船や住宅,島の資源などに頼り,観光客にサービスを提供する経営モデル(漁家楽)が存在している.近年,このような漁村体験観光が急増しているものの,サービス内容や運営方式が類似しているため競争が激しく,経営を維持できるのはごく一部にとどまるとされている(熊ほか2011).また,中国における体験型観光は,農山漁村地域開発の有効な手段として注目されている一方で,漁業地域における漁家体験型観光の研究はまだ初期の段階にある.</p><p> 本研究の目的は体験型観光の一種である漁家楽に着目し,漁家楽の成長する要因と地域資源の活用状況の検討を通して,地域資源の活用による観光資源化のプロセスと特徴を解明することである.また,本研究において,中国長島における89 軒の漁家楽経営者に聞き取り・アンケ-ト調査を実施し,体験型観光の展開と観光事業化の過程を検討した.</p><p>2.研究対象地域</p><p> 中華人民共和国長島県は黄海と渤海が交わる膠東半島と遼東半島の間に位置し,中国山東省煙台市蓬莱区に属し,人口は約4.4万人である.また、長島の観光産業生産はGDPの高い比率を占める一方、年間観光客数の増加率は減少している.</p><p>3.体験型観光の展開と観光資源化</p><p> 長島における体験型観光の展開の契機は,20世紀末に,地元住民の主な収入源であった海洋漁業の衰退とともに漁民の収入が激減したため,地元漁師が空部屋を改修し,釣り用具等を備え,観光客を受け入れたことから始まった.当時のサービス内容は主に漁家での作業体験や,漁家での宿泊体験や料理などの漁家生活と文化を体験できることが特徴であった.20世紀に入り,地域政府が観光業の管理を開始し,規制策や標準管理策として,漁家楽の応募条件や事業運営,管理システムなどが詳細に規定された.また,各村には漁家楽の管理事務所が設置され,事業者の受付サービスや監督・管理が行われるようになった.この時期には漁家体験を特徴とする漁家楽が盛んに宣伝されるようになり,短期間で広まった.</p><p> 中国における農山漁村観光の経営方式は多種多様である.特に,長島における漁家楽は主に5種類の経営方式がみられる.それらを類型化すると,①独立経営,所有権と運営権が一体となっていること.長島では多数の事業者が家庭単位で事業を営むという形をとることが多い.②連携店舗,近隣している店舗が経営団体で結成し,共同出資で看板・広告を出し,共同で食事の準備をし,満室の時には,観光客をほかの連携店舗に紹介したりする連携がみられること.そのほか,③委託経営や④専業経営会社⑤協同組合(村営企業)のような経営形態もみられること.</p><p>4.まとめ</p><p> 本研究の結果をまとめると,1)長島における体験型観光の展開は,漁家楽経営者らによる新たな観光資源の創出の取り組みに起因している.また,2)漁家楽経営者や行政担当者らによる島の多様な自然環境·文化の観光資源化は,漁家楽のプランド化と観光地域としての成長を促進していた.3)長島の観光資源は島嶼性に由来するものの,近年では生態系保護の観点から自然環境保護の利用・開発は抑制されており,島の歴史·文化資源が観光資源化される傾向が頭著になっている.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390860553711799168
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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