石見国那賀郡七条原における新田集落の形成とたたら製鉄

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  • Formation of <i>Shinden</i> Settlement and <i>Tatara</i> Iron Smelting in Iwami Highlands

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 石見国那賀郡の七条原では,19世紀前半,庄屋を勤める傍ら,たたら製鉄の経営にもあたっていた岡本甚左衛門(1774~1842)によって新田が開発された.その結果誕生した七条村(現・島根県浜田市金城町七条)の新開(しんがい)地区については,下記の文献などによってその開発過程が明らかにされている.しかし,耕地と集落の景観については未解明である上に,この開発目的を鉄山労働者への食糧供給とする指摘がある.そこで,本発表では七条原における新田開発の概要,たたら製鉄との関連,集落景観の形成過程と変化,住人の構成などについて報告する.</p><p>2.七条原の開発過程とたたら製鉄</p><p> 石見高原の一角を占める七条原に開発された田畑は,水源に恵まれない標高205~220m付近の小起伏地にある.文政3年(1820),浜田藩は甚左衛門に七条原の開墾と小割鍛冶屋の稼業を許可した.甚左衛門にとっての小割鍛冶屋は,七条原を開墾する上での労働力の確保と,百姓の入植を促す手段,そして開墾の資金源であった.約40町歩の開墾を計画した甚左衛門は,翌年,鉄山労働者とともに七条原へ移住した.</p><p> 文政10年には,検地がはじまった.文政12年の耕地面積は田11町1反9畝,畑5町4反8畝17歩に達し,新開地区には小割鍛冶屋81人を含む178人が生活していた.しかし,天保6年(1835)に小割鍛冶屋の稼業が停止となり,天保飢饉の影響もあって,人口は半減したとされている.甚左衛門は,天保13年に没した.同年,浜田藩は再開発と開墾を進めるべく,七条原に入植する郷組を20人募集した.</p><p>3.甚左衛門が開発した新田集落の景観</p><p> 右の絵図は,天保飢饉前の耕地と集落の景観を的確に示していると考えられる.①は図示されていない鈩谷溜池から続く水路であり,②の釜ヶ峠を経て,③の原中小溜池の北側に延びる.①は七条原開発にとって最重要の灌漑用水路であり,のちに完成する広草田大溜池からの用水もここを通ることになる.そして,④の佐野村道より右(南東)側の多くが耕地化されていた.路村状をなす⑤の集落は,職人の集住地として天保2年に甚左衛門が計画した「連檐(たん)区」とみられる.甚左衛門は,佐野村道より左(北側)の開墾もめざしていたものの,資金と用水の不足のため実現できなかった.小割鍛冶屋は,南部の字カジヤ床付近にあったとみられる.</p><p>4.幕末・明治初期における景観の変化と住人</p><p> 天保14年に20人の郷組が入植し,それぞれの屋敷は新開地区の各所に分散立地した.幕末・明治初期の集落は,諸職・商人をふくむ百姓が集住する路村と,元郷組の屋敷が点在した散村から構成されていた.安政3年(1856)には七条原最大の水源池となる広草田大溜池が完成し,2年後には増築されたものの,佐野村道より北西側への送水は実現しなかった.郷組による新規の開墾地は、おもに畑であった.</p><p> 慶応4年(1868)の新開地区には34軒が生活し,15軒が七条原への入植者とその子孫,19軒が百姓身分となった元郷組であった.郷組の制度では離村者の発生に対して,新規入植者が追加募集された.そのため,新開地区はさまざまな地域を出身地とし,かつ入植年の異なる住人によって構成されることになった.そして,明治3年3月に連檐区で発生した火災後,連檐区にある宅地はわずか5筆になり,宅地の連続性が失われた.その結果,新開地区の集落景観は,全域にわたって散村のようになった.明治8年の地籍調査によると,新開地区の田は10町9反3畝3歩,畑は5町4反7畝歩,屋敷が7反9畝9歩,合計17町1反9畝12歩となっていた.</p><p>文献</p><p>苅田吉四郎 1912.雲城村七條原開墾者岡本甚左衛門事蹟.島根縣内務部編『島根縣舊藩美蹟』191-219.島根縣.</p><p>森 八太 1983・1986.『七條新開と岡本甚左衛門・一・二』くもぎコミュニティ自治会.</p><p>金城町誌編纂委員会編 2003.『金城町誌6』379-427.金城町.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390860553711813760
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_38
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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