5.市販後安全対策-心毒性を中心に-

DOI

抄録

<p> 医薬品は、基本的に生物活性を持った化学物質である。もちろん、生物活性を持った化学物質の全てが医薬品になるわけではなく、何段階ものフィルタリングを経て有効性・安全性が確立したものだけが、最終的に医薬品となる。本稿をお読みのトキシコロジストの皆様の多くは、非臨床段階でのフィルタリングに従事されていることと思う。</p><p> 非臨床の段階では、検討対象となる化学物質の有毒な生物作用すなわち毒性について検討されるが、そこで見出された毒性をどのように評価するかは、最終的な医薬品の使われ方に依存する。例えば、降圧薬や高脂血症治療薬といった、生活習慣病の一次予防・二次予防に用いられる薬では、かなり高度な安全性が求められる。一方、抗腫瘍薬のような致命的疾患の治療薬で代替療法が限られる薬では、少々の肝毒性・腎毒性・発がん性などは軽く許容範囲となる。要は、ベネフィット / リスク バランスが、ベネフィット側にあれば良い訳である。</p><p> 臨床試験の段階で、有効性・安全性のハードルをクリアし、承認審査を経て晴れてデビューを飾った医薬品であっても、それで安全性が確立したというわけではない。なぜなら、臨床試験段階での症例数は少なく、多様な患者背景・患者体質・併用療法等との種々の組み合わせにおいて、十分な安全性データを収集できているとは限らないからである。</p><p> そのため、医薬品の安全性を確保するためには、市販後の段階においても多様な情報を収集し、得られた知見に基づいて適切な安全確保を行うことが求められている。市販後は、臨床試験とはほとんど対極にあるような世界である。条件の制御された少数例(百のオーダー)の検体を詳細に調べて多様な情報を得る臨床試験とは異なり、多種雑多な多数例(万のオーダー)から得られる限定的な情報を分析して、必ずしも確実といえない結論しか得られていないとしても、市販後は迅速な措置が必要となる場合もある。</p><p> 本稿では、市販後安全対策の仕組みについて解説した後、心毒性を中心にその活動の実例を紹介する。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390861548954561536
  • DOI
    10.50971/tanigaku.2012.14_36
  • ISSN
    24365114
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

問題の指摘

ページトップへ