重症心身障害児(者)の受け入れ体制と医療連携

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  • 竹本 潔
    大阪発達総合療育センター 小児科 医師

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タイトル別名
  • −大阪府下の対応状況−

抄録

Ⅰ.はじめに 新型コロナウイルス感染症が蔓延している。2020年12月4日から大阪府は独自基準で定めた「大阪モデル」が赤信号になった。本稿は刻々と変化する状況下において、2020年12月12日時点での口演内容を示したもので、口演時と本稿が発行された時点の状況は異なっている可能性が十分あることをご理解いただきたい。 Ⅱ.コロナ禍での重症心身障害児施設の対応 コロナ禍での全国の重症心身障害児施設の対応を紹介する。調査結果は日本重症心身障害福祉協会が加盟施設を対象に2020年10月に実施した第2回新型コロナ感染症対応アンケート結果(回答数93施設)を拝借させていただいた。 1.コロナ禍での利用者への対応 1)入所者の面会について 制限なし:0、一定条件で可:47、病棟外なら可:33、不可:12、その他:27 事前予約制や短時間(1時間程度)とする施設が多かった。 2)ICT面会について 実施済み:59、していない:11、検討中:12 LINE、ZOOM、Skypeの利用が多かった。 3)外出について 原則禁止:66、条件付きで許可:34、制限なし:0 ストレス解消のため近所の公園のみ許可している施設がみられた。 4)短期入所 通常通り実施:21、 制限付きで実施:62、 中止:13 利用者の周囲を含む健康確認を慎重に実施していた。PCR検査や抗原検査を義務付けている施設もあった。また入所後は長期入所者との接触を避ける努力がされていた。短期入所は在宅生活者にとって不可欠の重要なニーズであり、完全中止している施設は少なかった。 5)通所(児童発達・生活介護) 通常通り実施:45、 制限付きで実施:34、 中止:1 ここでも利用者の周囲を含む健康確認を慎重に実施していた。 6)外来部門(リハビリテーションを含む) 通常通り実施:49、 制限付きで実施:41、 中止:1 慢性疾患の定期受診はリモート診療が活用されていた。利用者はマスク不可な方が多いためリハビリテーションは濃厚接触にならざるを得ず、各施設対応に苦慮していた。防護服やアイシールドの装着をルーチンにしている施設もあった。四天王寺和らぎ苑より、ZOOMによるリモートリハビリテーションを開始し、家庭での生活場面に則したポジショニングやケアの提案ができ、ホームプログラムの伝達に有用であったとの報告があった。 7)入所者の療育活動の変化 小グループや部屋単位での活動になった:74、活動内容の変化:54、活動回数が減少:43、活動回数が増加:2 3密を避け、小グループの活動のみを行う施設が多かった。また、ボランティアの中止などイベントや行事の中止が多かった。 8)入所者の健康状態(身体・心理面)の変化 出ている:45、変わらない(ように感じる):45 外出の機会が減りストレスが増加した方がみられたり、活動量の低下、ソーシャルディスタンスを保つ影響で、五感へ働きかける機会が減ったとの回答があった。 2.新型コロナ感染対策について 1)発生を想定してのゾーニングの実施 実施している:44、計画している:50、予定はない:4 ショートステイ棟をコロナ対応病床として備えておくと回答した施設があった。 2)発生を想定して職員を2チームに分ける策の実施 講じている:27、計画はある:34、発生すれば検討する:24、予定なし11 平時より職員や利用者を2チームに分けて、活動等で利用者が交わらないようにしている施設があった。 3)施設の新築や改修 実施した:25、予定あり:20、予定なし:52 感染症対策として動線を変更できるよう、建物改修で別玄関を設置した施設があった。 4)陰圧室の設置 既にある:17、新設した:4、計画中:19、予定なし:56 自施設も第1波で陰圧発生装置を発注し、ようやく2021年1月に設置された。注文が多く施工まで時間を要するようである。 5)防護服・フェイスシールド・ゴーグル(アイシールド)の使用 常時使用:11、飛沫がとぶとき:67、吸引等の処置時:63、食事介助時:39、排泄介助時:15 吸引時や食事介助時に使用する施設が多かった。 6)新型コロナウイルスの検査機器の保有 簡易型PCR検査:5、抗原検査:49、検討中:7、なし:33 抗原検査機器を保有している施設が多かった。 7)エアロゾルが発生する人工呼吸器、カフアシスト、肺内パーカッションベンチレータ(IPV)の使用に関して(自由記載) ・エアロゾルが発生するIPVの使用は中止した。 ・気管内吸引を閉鎖式(トラックケア)に切り替えた。 ・加温加湿器を中止しバクテリアフィルタ機能付き人工鼻にした(あるいは検討中)。 ・リークポート使用回路から呼気弁使用回路に変更を検討中。 ・加温加湿器の使用は継続せざるを得ないため、人工呼吸器の呼気側にバクテリアフィルターを装着した。 ・コロナ疑い例はカフアシスト中止している。 ・Withコロナ時代を考慮してカフアシストは機器の共有を中止し、個別に1台ずつのレンタルに変更した(自施設)。 3.新型コロナ感染症の発生時の対応 1)入所者が発症した場合 原則指定医療機関に転院:65、重症化した場合は転院:20、原則施設内で治療:4、その他:16 軽症であれば自院で診ざるを得ない可能性が高いと考えている施設が一定数あることがわかった。 2)介護者が感染した場合に濃厚接触者となる重症児(者)を短期入所で受け入れ可能か? 受け入れ困難:67、条件を満たせば可能:29、可能1 入所者を守ることが最優先となり、濃厚接触者の受け入れは困難と回答した施設が多かった。 3)地域内・事業所間などでの職員の応援協力体制があるか? ある:28、ない:45、検討中:24 自施設内や法人内での運用が主で、運営母体を超えての他施設との連携・協力は難しいようだった。 Ⅲ.介護者が感染した場合に濃厚接触者となる重症児(者)の大阪府下での受け入れに関する調査 1.大阪で重症児(者)の短期入所・レスパイトを実施している施設の連携で、2013年に自施設が事務局となって設立した大阪ショートステイ連絡協議会(現在9病院、7療育施設が参加)へのアンケート調査の結果(2020年4月実施、重複回答あり) 濃厚接触者となるので受け入れは不可:5病院、6療育施設 PCR検査を実施して陰性ならば受け入れ可:1病院 2週間経過後発症が無ければ受け入れ可:1病院、1療育施設 隔離対応で受け入れ可:1病院 個々に背景因子等十分検討して判断することになる:2病院、1療育施設 2.大阪府下の医学部を有する5大学小児科医局へのアンケート調査(2020年5月実施)の結果(大阪母子医療センターの和田和子先生(日本小児科学会災害対策委員会担当理事)が実施され結果を共有させていただきました)。 個別に対応可:9病院 PCR陰性/2週間経過後なら可:8病院 Ⅳ.大阪府下の施設での感染事例からの教訓 1.A施設 職員の感染が判明し、その後の職員と利用者の PCR 検査を実施した結果、さらに職員数名の陽性が確認された。2週間は通所、外来部門 、訪問事業を休止して、その分の人員を入所部門に充てて乗り切った。職員間での感染拡大の原因は 、マスクを外す食事の際や、密になりやすい休憩室、更衣室での感染が疑われた。利用者で濃厚接触者でなかった方もPCR 検査を受けたことで 2 週間の自宅待機の指導を受けたり、他の事業所でのサービスや学校通学を断られたりして、切実な問題であった。 2.B施設 職員が発症し入所者と職員の計116名のPCR検査を実施したが全員陰性であり、その後当該病棟からの新規発症はなかった。PCR検査は、行政検査実施医療機関として事前に市と委託契約をしていたので、保険診療のPCR検査の自己負担分が公費で補助された。また自院で採取し民間検査機関に提出することで速やかに大人数の検査ができ、クラスター防止対策に役立った。唾液PCRだと検査実施場所や検体採取者の防御装備が省略できて非常に簡便であった。 3.C施設 職員と入所者が発症したが、感染症指定医療機関に転院できず自院で診るように指示された。独立した出入り口があり、酸素、吸引、浴室、トイレが完備している通所介護の部屋(病棟とは別の階)を専用病室にして対応した。利用者は幸い重症化せずに回復した。動ける方であったので、モニターを外したりするたびに防御装備をつけて入室する必要があり、看護・ケアに苦労した。利用者が発症した場合必ずしも転院できるわけではないことがわかった。自院で診る覚悟・準備が必要である。 Ⅴ.考察 全国の多くの施設で面会や外出、療育活動が大きく制限されていた。感染防御の観点よりやむを得ない対応ではあるが、今後長期化することで利用者の心身に変調を来す可能性がありきめ細かい観察と対応が必要である。ICT面会を導入する施設が増加していたが、視覚認知や聴覚が低下した方ではその効果には限界があり、両親側のストレスも相当なものと想像できるので、長期化するようであれば感染対策を講じた上で直のスキンシップを伴う面会の再会を考慮したいと考えている。リモート診療は安定した方の指導管理料の算定には何ら問題なく、今後コロナ禍から脱出できた際にもぜひ継続していただきたい。 (以降はPDFを参照ください)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862179308891648
  • DOI
    10.24635/jsmid.46.1_21
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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