理学療法の過程でShared Decision Makingを行い、ボツリヌス療法導入に至った脳性まひ児の一例

DOI
  • 渡邊 多佳子
    一般財団法人 倉敷成人病センター リハビリテーション科
  • 柘植 孝浩
    一般財団法人 倉敷成人病センター リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに】</p> <p> 脳性まひの痙縮に対する治療の1つにボツリヌス療法があるが、ボツリヌス療法を有効とする報告もあれば、効果がないとする 報告もあり、その効果は明らかになっていない。今回、患者、患者家族と理学療法の過程でShared Decision Making (以下 SDM)を行い、ボツリヌス療法導入に至り、主観的改善が得ら れた一例を経験したため、報告する。 </p> <p>【症例報告】</p> <p> 脳性まひ痙直型両麻痺の12才男児 (GMFCSレベルⅢ)、周産期の異常はなく出生した。理学療法は2歳3ヶ月より開始した。現在、特別支援学校 (肢体不自由部門)通学中であり、金属支柱付き短下肢装具とロフストランドクラッチを使用し、近位監視で歩行が可能で、長距離移動は車椅子を併用している。 本人の希望として「杖で転ばないように歩きたい、歩ける距離を伸ばしたい」という思いが聞かれた。母からは「足が固くて装具が履きにくく朝の支度に時間がかかり、本人がイライラしている」という話しが聞かれていた。これらの原因の一つとして痙縮の影響があると考え、痙縮の治療として下腿三頭筋へのボツリヌス療法を検討した。治療内容を伝える際にはSDMを意識し、本人、母にボツリヌス療法の情報共有を行った。その際にメリットとデメリットを説明し、質問があった際には理解ができるまで、繰り返し丁寧に説明を行った。また必要に応じて医師の診察に同席し、本人、母の理解度を確認しながら、追加の説明を行った。母からは「手術の方法しか知らなかったので注射でできるならしてみたい」という返答であった。そして、本人からも「やってみたい」という意思決定があり、ボツリヌス療法導入に至った。 </p> <p>【経過および結果】</p> <p> ボツリヌス療法と併用してストレッチや筋力運動などの理学療法を実施した。 ボツリヌス療法後より母や本人から「朝の支度の時間にかかる時間が短くなった。」、「装具が履きやすくなった。」、「歩きやすくなった。」、「トイレを立ったままで出来るようになった。」と主観的改善が得られていた。学校の先生からは、 「転ぶ回数が少なくなった。」など良好な反応があった。 ボツリヌス療法施注前後の客観的評価は、Modified Tardieu Scaleを用いて、腓腹筋を評価した。R1-fast stretch施注前 (右/ 左)‐35°/-35°、施注1ヶ月後-20°/ -10°、施注3ヶ月後-20° /-25°、R2-slow stretchは、施注前 -15°/-15°、施注1ヶ月後 -5°/-5°、施注3ヶ月後-5°/-10°、Timed Up and GO Testは、施注前21 .3秒、施注1ヶ月後19.4秒、施注3ヶ月後20.7秒であ っ た。 </p> <p>【考察】</p> <p> SDMを意識して患者、患者家族に情報共有することで、痙縮に対するボツリヌス療法を導入するという、患者、患者家族の意思決定を援助することができた。ボツリヌス療法導入の結果、機能的な改善は十分得ることができていないが、主観的改善を得ることができ、患者、患者家族の治療への満足度は向上したと思われる。 </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本症例発表は、倉敷成人病センター倫理審査委員会の承認を得て、実施した。</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 131-131, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862623770622080
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_131
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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