口から始めるフレイル予防:口腔機能の視点から

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抄録

<p>団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年に向けて、健康寿命 の延伸を目的とした高齢者のフレイル対策が国家戦略として推進されている。低栄養、筋肉量・活動量の低下、社会交流機会の減少といったフレイルの危険因子への対策が各地で取り組まれている中、口腔機能の低下とフレイルとの関連が近年明らかになってきた。口は日々の食事や他者との会話だけではなく、表情などの非言語的コミュニケーションに欠かすことができない重要な役割を担っている。特に口腔には味覚や唾液分泌、発音、咀嚼、嚥下といった多種多様な機能があり、それらの機能は相互に影響し合いながら口腔機能を成り立たせている。口腔機能とは単一の機能ではなく多様な機能を指しており、衛生状態や唾液分泌量、歯数、義歯の状態といった口腔環境、口唇や舌、咀嚼筋といった個々の筋力や運動機能といった個別の口腔機能、個別の機能が統合された咀嚼や嚥下のような統合的な口腔機能に分類される。これらの口腔機能が低下すると、徐々に生活の質にも悪影響を及ぼし始める。咀嚼や嚥下の問題は、口腔機能の低下の典型的な症状であり、これらが原因で食べにくい食品を避けることが偏食や食事量の低下につながる可能性がある。また、う蝕や口内炎による痛み、舌苔や歯周病による口臭、舌口唇の運動機能の低下による滑舌の悪さなどは、心理的問題や社会性の低下に影響するとされている。口腔機能の低下は、フレイルの危険因子である低栄養、筋肉量・活動量の低下、社会交流機会の減少といった要因を介して、間接的にフレイルに影響を与えると考えられる。そのため、理学療法の対象となる高齢者が口腔機能の問題を抱えていた場合、適切なリハビリテーションを実施したとしても、摂取可能な食品の制限による栄養素の偏りや心理的問題によるモチベーションの低下から、その効果が損なわれる恐れがある。理学療法の効果を最大化するためにも、口腔機能の低下とフレイルとの関連を整理し、対象者の口腔機能の状態を意識することが重要である。本講演では、口腔機能の低下とフレイルの関連をエビデンスに基づいて考察し、口腔機能の視点から始められるフレイル対策について整理したい。</p>

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