コロナ禍の行動制限が高齢者の身体・社会・精神的機能に与えた影響:年齢による機能低下と区別した検討

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> COVID-19感染症拡大防止のための行動制限は高齢者にも様々な影響を及ぼしたことが報告されている。しかし,それらの先行研究のほとんどは1時点の調査や,コロナ禍から調査が行われたものであり,行動制限による影響と加齢による変化を区別することが難しかった。本研究は,2016年から実施している調査データを用いることで,諸機能の変化についてコロナ前後の変化と経年変化を区別して検討することを目的とした。 </p><p>【方法】</p><p> 調査対象者は,2016年から神奈川県相模原市内で実施している体力測定会に参加した65歳以上の地域在住者から募集した。対面による縦断調査を2016年から2022年の期間に合計8回行った (Wave 1~Wave 8)。身体機能として体重,BMI,体脂肪率,骨格筋量指数,下腿周径,握力,膝伸展筋力,椅子立ち上がりテスト,timed up & go test,5m歩行速度を測定した。その他の機能として,老研式活動能力指標,TMT-A,GDS-5を測定した。線形混合モデル分析を行い,コロナ前後の変化と経年変化を区別するために,固定効果としてコロナ前後 (Wave 1~ Wave7 vs Wave 8),測定時期 (Wave 1~Wave 8),性別,初回参加時の年齢を,変量効果として個人 (ID)を投入した。 </p><p>【結果】</p><p> 分析対象者は73人であり,そのうち52人 (69.9%)は女性であ った。初回参加時の平均年齢は71.82歳 (SD = 4.64)だった。分析の結果,コロナ前後にだけ有意な変化が認められたものは下腿周径,膝伸展筋力,骨格筋量指数,椅子立ち上がりテスト, 5m歩行速度,TMT-Aだった。体脂肪率は経年とコロナ前後のいずれにも有意な変化が認められたが,コロナ前後の変化の方が大きかった。経年変化のみ認められたのはBMIと握力であり,いずれの時期にも変化が認められなかったのは体重,timed up & go test,老研式活動能力指標,GDS-5だった。 </p><p>【考察】</p><p> コロナ前後に有意な変化を認めたのは主に下肢筋力であった。一方,握力は加齢による変化は認められたもののコロナ前後に有意な変化は認められなかった。これらの結果から,コロナ前まで行動範囲に制限のなかった高齢者にとって,行動制限は下肢筋力の低下に顕著に影響したものと推測された。 </p><p>【結論】</p><p> 本研究では活動能力に有意な変化が認められなかったものの,下肢筋力は自立にとって重要な要因であり,この筋力の低下が将来的に高齢者の自立に影響を与える可能性が示唆された。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本研究は,北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て行った (2018-008B)。すべての調査対象者には研究の目的と意義,アンケートの回答は任意であること,拒否しても不利益は生じないことを口頭および書面で説明した。説明後,同意書への署名をもって研究参加の同意を得た。</p>

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