大腿骨骨折入院患者における転倒予防の盲点 ~転倒リスクが高い状態で転倒件数が多いとは限らない~

DOI
  • 井上 靖悟
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 大高 洋平
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部 藤田医科大学 医学部リハビリテーション医学I講座
  • 辻川 将弘
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部
  • 川上 途行
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部 慶應義塾大学 医学部リハビリテーション医学教室
  • 近藤 国嗣
    東京湾岸リハビリテーション病院 リハビリテーション部

抄録

<p>【目的】</p><p> 過去の転倒歴は再転倒の最も高い危険因子であり(Tineti ME, 2010)、転倒による大腿骨骨折患者の再転倒リスクは高いことが推察される。一方、標準的な転倒予防対策は、転倒ハイリスク状態の患者を特定し対応することであるが、リスクの高い患者における転倒が観察される転倒の多くを占めるかどうかは依然として不明である。転倒予防対策の結果を振り返ることは、新たな対策を検討する上で有益な情報を提供し臨床的に意義がある。本研究の目的は、大腿骨骨折入院患者の運動と認知能力による転倒複合リスクと転倒回数の関係を明らかにすることである。 </p><p>【方法】</p><p> 本研究は後方視的コホート研究である。対象は2015年1月から 2019年12月までに当院回復期病院に入院した連続登録された転倒受傷の大腿骨骨折患者549名である。除外基準はオプトアウトにより申告があった患者とした。入院中の転倒歴と隔週で評価される機能的自立度評価(FIM)は医療記録より収集した。 FIMは運動と認知項目それぞれの合計点より平均得点化し、完全依存(1-2点)、修正依存(3-5点)、自立(6-7点)に分類した (Linacre JM, 1994)。転倒複合リスクはFIM得点ごとの運動と認知の組み合わせによる観察期間中の患者1日あたりの転倒数 (/1,000人・日)として算出し、同様に組み合わせごとの転倒回数と総転倒回数に占める割合を算出した。記述統計は、 STATA/BE 17 (StataCorp., Texas, USA)を用いて行った。 </p><p>【結果】</p><p> 全対象者549名のうち、89人が観察期間中に転倒し、合計128件の転倒、全体の転倒リスクは3.5/1,000人・日であった。転倒複合リスクは、運動が修正依存と認知が完全依存の組み合わせで最も高く5.7/1,000人・日、転倒観察数は5件(全転倒者の 3.9%)であった。転倒が発生しなかった組み合わせを除き、最も転倒リスクが低かったのは、運動が自立で認知が修正依存の組み合わせで1.7/1,000人・日、転倒観察数は4件(3.1%)であった。二番目に転倒複合リスクが高かったのが、運動が自立で認知が修正依存の組み合わせで2.1/1,000人・日、転倒観察数は28件(21.9%)であり、最も転倒リスクが高値を示した転倒件数の約5倍であった。 </p><p>【考察】</p><p> 転倒リスクが最も高い状態で必ずしも転倒観察数が多いとは限らないことが明らかとなった。本研究結果は、新たな転倒対策を検討する必要性を示す重要な知見である。本研究の限界は、単施設後方視研究であるため一般化には注意が必要である。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 研究プロトコルは当院倫理審査会により承認された(承認番号: 230-2)。本研究は後方視研究であるため厚生労働省ガイドラインに基づき当院審査会よりインフォームドコンセントが免除され、当院ウェブサイトによるオプトアウト手続きを行った。本研究はヘルシンキ宣言に従って実施された。</p>

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