高齢者の就労状況と5年後の要介護認定状況との関連:傾向スコアマッチング法による分析

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 高齢化が進行する本邦では、高齢者の就業機会の確保が進められている。高齢期における就労は主観的健康感や生存率との関連が示され、就労が健康に好影響を与えると示唆される。そこで本研究では、一つの都市的地域で行われた高齢者調査の結果を用い、高齢期に就労していることが、その後の要介護発生に関与するかを明らかにすることを目的とした。 </p><p>【方法】</p><p> 対象は、平成29年時にA市に居住し、65歳以上で要介護状態 にない28,092名とした。全対象者に自記式アンケートを送付し、21,586名 (回答率76.8%)から回答を得た。就労状況の回答結果から対象を就労群、非就労群の2群にわけ、さらに傾向スコアを用いて就労状況およびその後の要介護認定の発生に影響すると考えられる要因をコントロールし、両群2,659名ずつ計 5,318名 (平均年齢70.5±4.5歳)を分析対象とした。分析対象の令和3年4月1日時点の要介護発生状況および生存状況を調査し、平成29年時点の就労状況と要介護発生および生存状況との関連をχ2検定にて検討した。 </p><p>【結果】</p><p> 抽出された対象者のうち、平成29年から令和3年までの5年間で、新規要介護発生は171件 (3.2%)、死亡者は222名 (4.2%)だった。平成29年時点の就労状況とそれぞれの発生頻度との関連は、χ2=11.9、p<0.01で有意差を認め、調整済み残差から、就労群の要介護の発生件数 (67件)は非就労群 (104件)よりも少なく、死亡者数は両群で差を認めなかった (就労群:98名、非就労群124名)。さらに、要介護度別の発生状況を用いてχ2検定を行った結果、χ2=21.1、p<0.05で有意差を認め、調整済み残差から、就労群の要支援者2の発生件数 (7件)が非就労群での発生件数 (20件)よりも少なかった。その他の要介護度には差を認めなかった。 </p><p>【考察】</p><p> 高齢者の就労は5年後の要介護発生率を低下させる可能性が示された。中でも、要支援2の発生頻度が低いことから、要支援が必要となった主な原因の上位である加齢による衰弱等が抑制された可能性が考えられる。一方、要介護1以上や死亡の発生件数には差を認めなかった。このことから、要介護が必要となった主な原因の上位にある脳血管疾患や認知症の発症、さらに高齢者の主な死因として挙げられる悪性新生物や心疾患については、就労以外の要因の影響が示唆される。 </p><p>【結論】</p><p> 65歳以上で就労していることは、5年後の要支援発生を減らし、健康に好影響を与える可能性が示された。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本調査実施時に、収集したデータは研究で使用することについて調査票に記載した。回答は対象者の任意であり、調査票の返送をもって調査および収集したデータの研究利用に同意したものとみなした。研究計画については、城西国際大学研究倫理審査委員会から実施許可を得た (実施許可番号2022-004)。</p>

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