歯科衛生士における腰痛有症者の実態と関連因子

DOI
  • 森下 元賀
    令和健康科学大学 リハビリテーション学部理学療法学科
  • 久本 千佳
    一般社団法人 岡山県歯科衛生士会 会長

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 歯科衛生士は口腔内の処置のために前傾姿勢を取っている時間が長い。また、病院、在宅診療に従事する歯科衛生士においては、移乗介助が必要であったり、ベッド上での無理な体制での処置を強いられることもある。さらに労働者の職業性ストレスは腰痛に影響しているという報告もあることから、歯科衛生士においても同様である可能性がある。我々は歯科衛生士における腰痛の罹患実態を調べることと、勤務形態、心理的ストレスとの関連を明らかにすることを目的に研究を行った。 </p><p>【方法】</p><p> 対象者は岡山県歯科衛生士会の所属する会員290名とした。会 員には郵送調査でアンケートを行った。アンケート内容としては、業務内容、家庭環境、現在の身体的、精神的健康状態、腰痛の有無と内容、負担と感じる動作、腰痛に対する対処とした。統計学的解析は記述的統計による結果の集計と合わせて、勤務先による腰痛の有無をカイ二乗検定で解析を行った。また、現在の腰痛あるいは腰痛の既往の有無を従属変数、年齢、勤務先、雇用形態、歯科衛生士の経験年数、要介護家族の有無、運動習慣の程度、仕事上での精神的ストレスの強さを独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。 </p><p>【結果】</p><p> アンケート調査の回答は82名から得られ、回答率は28.3%であった。回答者の平均年齢は50.8±10.8歳であった。回答者の中で歯科医院勤務は39名(47.6%)、病院勤務は31名(37.8%)、そ の他が12名(14.6%)であった。回答者の中で現在腰痛を抱えているのは38名(46.3%、母比率の95%信頼区間: 35.5-57.1%)、過去に腰痛を経験したことがあるのは29名(35.4%、母比率の 95%信頼区間: 25.0-45.7%)であった。負担に感じる動作は口腔内処置の姿勢などの他に、病院勤務者では患者の抑制や移乗も含まれていた。カイ二乗検定において、勤務先と現在の腰痛有無には有意差を認めた。ロジスティック回帰分析では、現在あるいは過去の腰痛経験と関連しているのは年齢(オッズ:1.274)、病院勤務(オッズ:9.964)、精神的ストレスの強さ(オッズ:7.046)であった。 </p><p>【考察】</p><p> 腰痛有症率は歯科衛生士においては女性の年齢平均よりも高く、看護、介護職と同程度であった。また、病院勤務と腰痛が関連 していることについては、患者の抑制や介助の必要性、ベッドでの処置姿勢が関連していると考えられた。 </p><p>【結論】</p><p> 病院勤務の歯科衛生士に対しては、特に腰痛予防の理学療法の必要性が示唆された。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p>筆頭演者が研究実施時に所属していた吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号: 22-46)。対象者には研究の趣旨を書面で説明し、アンケートの回答をもって同意したものとみなした。</p>

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