現場における高年齢労働者の労働災害予防の実際

DOI

抄録

<p>【はじめに】</p><p> 少子高齢化の中,定年制が崩壊し従業員の高齢化に伴う労働災害事故が増加している. 一般に経験豊富な高年齢労働者は業務に明るく後進の指導がで き企業にとっては大きな財産であるが,同時に加齢による身体機能低下や疾病の影響で企業に損をもたらすようになってくる.本邦において健康診断は成されているが,多くの場合,体力測定は高校時代が最後の実施であり,高年齢就業者は現在の自身の体力低下に気づけていない.また彼らは,高血圧症,糖尿病,脂質異常症などを要因とする心血管障害やがんなど種々の疾患に罹患している場合が多い.さらに彼らはそれらの治療をしながら,これまでの作業方法を継承している.これらのことから労災事故や離職が進んでいると言えよう. さて,このような状況を打破するために理学療法士に何ができるだろうか. </p><p>【目的】</p><p> 当方が実施してきた産業保健分野における高年齢労働者の理学療法の実践を紹介し,介入の一助にしてもらうことである. </p><p>【方法】</p><p> ①簡単な体力測定方法を紹介し高年齢労働者の特性を示す. ②高年齢労働者でも実践可能な職種別の体操を紹介する. ③高年齢労働者の多い職場の作業管理・作業環境管理を紹介する. </p><p>【考察】</p><p> 我々がまず成すべきことは社長や工場長などの企業の管理者に 健康宣言させることである.これにより指導者としての理学療法士が動きやすくなり,従業員からの協力も得られやすい.理学療法士の介入がプレゼンティズムによる企業における損金抑制や離職防止を示せば管理者からの協力は得られやすいだろう.次に健康管理,作業管理,作業環境管理の実施である.健康管理は理学療法士の得意分野であろう.すぐに可能なこととして体力測定の実施,職種に応じた体操や運動の指導がある.職種に応じた体操や運動を作成して実践させ,未実施者には実践の仕掛けを作ることが必要である.また職場の作業分析を実施し,必要な運動・身体機能の基準を示し,クリアできるように指導すること,あるいは機器の導入を勧奨することが必要であろう.社外の者である理学療法士が作業管理や作業環境管理を実施する際,あらかじめアンケート等で各人の身体症状,作業方法の考え方を把握することが有用であり,その情報を元に対策を講じたうえで職場巡視と聞き取り調査にあたることが有用であると考えている. 人間の動作分析に長けた理学療法士にとって決して難しいことではない. </p><p>【倫理的配慮】</p><p>今回の情報は全て関西労災病院倫理委員会の承 認を得た研究から選択されたものであり、内容はヘルシンキ条約に基づいている。開示すべきCOI 関係にある企業などはない。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ