大野雅二先生を偲んで

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抄録

恩師大野雅二先生におかれましては,昨年12月6日にご逝去されました.衷心よりお悔み申し上げます.<br>大野先生は北海道大学で杉野目晴貞教授,正宗直教授に,米国イリノイ大学,ハーバード大学でE. J. Corey教授に師事され,有機化学者としての強固な基盤を確立されました.帰国後アカデミアと企業の両分野で活躍され,大きな足跡を残されました.<br>1977年,東京大学薬学部教授に着任された大野先生から私たちが学んだ最も大切なことは,研究における「コンセプト」だったと思います.すなわち,合成しようとする分子構造のなかに対称要素を見いだし,酵素を試薬のように用いて不斉を構築する“symmetrization-asymmetrization concept”の考え方を創始され,β-ラクタム化合物,ヌクレオシド誘導体をはじめとする各種生理活性物質の合成を先駆的に展開されました.「コンセプト」という言葉は,当時の研究室で流行語のようになりました.また微生物化学研究所との共同研究を推進され,ブレオマイシン,ネガマイシンなど同研究所で見いだされた多彩な構造を持つ微生物二次代謝産物の合成研究に注力されました.こうした研究においては「深は新」となることの必然性を説かれ,目を開かされました.<br>先生は人間として大きなものをお持ちでした.大学を定年退官された先生に同窓会などでお会いすると,私のような凡人が日常の些事に取りまぎれて忘れがちになっていた何か途方もないものが目の前に蘇ってくるような心持ちがしました.<br>大野先生は鰻が好物で,10月27日のお誕生日には門下生で上等な鰻をお贈りするのが近年のしきたりになっていましたが,先生は昨年のお誕生日の鰻を味わわれて旅立たれました.大野先生,どうぞ安らかにお眠りください.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 60 (4), 356-356, 2024

    公益社団法人 日本薬学会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862623771663872
  • DOI
    10.14894/faruawpsj.60.4_356
  • ISSN
    21897026
    00148601
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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