「シン・させていただく」の誕生秘話

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  • 文法化と敬意漸減の影響

抄録

<p>「させていただく」は使役の助動詞「させる」と授受動詞「いただく」が連結の「て」で結ばれた連語で、自分の行為をへりくだる時に使われる。汎用性が高く盛んに使われるうちに本来の使い方とは異なる用法が出現し、「違和感がある」と批判される用法が出てくるまでになった。椎名(2021)は「させていただく」への違和感調査とコーパス調査を実施し、使用状況の変化を歴史語用論的に検討した。その結果、「させていただく」が「謙譲語」から「丁重語」へと変化してきたと考え、本来の「丁重語」と区別して「新・丁重語」と呼んだ。滝浦(2022c)はさらに「美化語」にまで変化している場合もあるとしている。本論考では、丁重語化・美化語化した「させていただく」に「シン・させていただく」という愛称を付け、これまでの研究成果を辿りながら、それが敬語史上の単なる徒花ではなく、連綿と続いてきた敬意漸減の影響を受けて変化し続ける「させていただく」の姿であることを示す。</p><p>「違和感がある」と批判されるのは、芸能人が記者会見で使う「〜さんとお付き合いさせていただいております」、政治家が釈明時に使う「お答えは差し控えさせていただきます」といった用例である。これらの例での「させていただく」は自己完結的な動詞と共起し、元々備わっていた恩恵や許可の意味合いは薄れている。ここでの「させていただく」は、へりくだることによって相手への敬意を示しているというより、丁寧な物言いによって自分の丁寧さを示していると解釈できる。ここにゴフマンの「表敬」と「品行」という概念(Goffman 1967)を援用すると、「表敬」の敬語から「品行」の敬語への変化と捉えられる。これは日本語の敬語全体に当てはまる変化かもしれない。</p><p>ここでは授受動詞の補助動詞用法を山田(2004)に倣ってベネファクティブと呼ぶ。また、授受動詞の前に使役の助動詞「させる」のついた形もベネファクティブに含める。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862623772237184
  • DOI
    10.32252/tcg.21.0_50
  • ISSN
    24344680
    13488481
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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