ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で探る初代天体の形成過程

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タイトル別名
  • Probing Star Formation Activity in the First Galaxies with James Webb Space Telescope

抄録

<p>2022年に打ち上げられ運用を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の登場は,遠方天体や深宇宙探査に関する研究に革命をもたらした.天体観測により人類が探査可能な宇宙の範囲は,現在の宇宙年齢の10%にも満たない若い時代の宇宙にまで到達し,宇宙で最初に誕生した第一世代の星,銀河そしてブラックホールという天体の形成過程の解明に向けて,今まさに活発な議論が行われている.宇宙初期の天体現象を詳しく観測することは,それ自体の興味深さに加えて,現在に至るまでの宇宙の大規模構造の進化,そしてそれらの起源を理解する上で必要不可欠な情報をもたらしてくれる.</p><p>ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は観測開始から1年の間に,極初期宇宙に存在する150天体以上もの銀河の発見に成功し,それらの統計的な性質を明らかにした.特に銀河の光度関数は,遠方宇宙における銀河の形成史や星形成活動史を理解する上で重要な情報を含んだ量となっている.今回新たに発見された銀河種族の光度関数の特徴的な形は,過去のハッブル宇宙望遠鏡などを用いた観測により導かれたものとよい一致を示しているものの,明るい側での数密度の超過が見られた.さらに,そのような明るい遠方銀河の星質量は非常に大きいことが分かり,それは従来の「小さな構造からより大きな構造へ進化する」という標準宇宙論における階層的な構造形成の枠組みと矛盾することが指摘された.このことは,宇宙論的な構造形成や星・銀河形成に関する理論体系の改良や刷新を迫る新しい発見であったと言える.</p><p>この問題に対して,我々は銀河・星形成の分野で一般的に仮定されていた物理量に疑問を持ち,それらの値を再評価することで遠方銀河の明るさ・重さ問題の解決法を提案した.一つ目は銀河内でガスが星に変換される効率である.従来の観測では,遠方銀河の光度関数の形を説明する際に,平均的に数%の星形成効率を仮定すれば十分であることが知られていた.しかし,新しく発見された種族の銀河内では,ガスを星に変換する効率が通常の10倍程度大きい10–30%という高い値をとることが要求された.この値は近傍宇宙で観測される特に星形成活動の活発な銀河や星密度の高い星団で見られる値とよく一致しており,宇宙初期の環境では銀河全体でそれと同程度の爆発的な星形成が効率よく進んでいることが分かった.</p><p>二つ目は,星からの紫外線放射効率である.この値は初代銀河で形成される星の質量分布や重元素量を探る上で非常に重要な情報を含んでいる.星形成に関する理論的な予言として,宇宙初期の重元素が存在しない環境で誕生する宇宙最初の星,いわゆる初代星は現在の銀河系で誕生する太陽のような典型的な星に比べて質量が大きくなると考えられている.星の光度は質量の3乗に比例して大きくなるため,理論から期待されるように遠方宇宙の銀河が選択的に大質量星を形成しているとすれば,同じ星の総質量に対して効率よく紫外線を放出することができる.</p><p>以上の考察から,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により新しく発見された銀河の質量や光度の個数分布の形と標準的な宇宙論で期待される分布とのずれから,宇宙の始原的な環境で起こる星形成・それに伴う銀河形成の性質に制限を与えることが可能となった.これらの観測は銀河形成の理論的な枠組みの根幹部分に重要な示唆を与えるものであり,さらなる観測によって我々の深宇宙への理解を深める手助けになるだろう.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 79 (4), 170-174, 2024-04-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862654957275776
  • DOI
    10.11316/butsuri.79.4_170
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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