(エントリー)中世城館跡で発生した土砂移動への地質の影響

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  • (entry) The influence of geological conditions on mass movements at medieval castle ruins
  • <b>★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★</b>

抄録

<p>はじめに平成30年7月豪雨では広島花崗岩類が分布する東広島市において,中世城館跡の下部斜面で土砂移動が多発した.築城のための人為的地形改変が土砂移動の発生要因の一つとなることが,これまでに指摘されている1.本講演では,花崗岩以外の地質に立地する中世城館跡についても調査をおこない,中世城館跡で発生した土砂移動への地質の影響について,GISと遺構図(城跡の略測図)23を用いて検討した.調査対象中世の城跡が165件残る東広島市2と,東広島市に近接する呉市・竹原市・安芸高田市の三市,および岡山県に立地する中世城館跡を調査対象とした.東広島市・呉市・竹原市は花崗岩類が広く分布し4,平成30年7月豪雨でも多数の土砂移動が発生していたことが報告されている5.安芸高田市は流紋岩類が広く分布し4,毛利氏の拠点の郡山城跡を含む115件の中世城館跡が残る2.岡山県には中世に築城された城跡が1,126件と多く残る3が,四市と異なり,特定の地質が顕著に偏って分布しているわけではない4.そして四市および岡山県とも100年以内に複数回の豪雨を経験している67. GISによる城跡の地質別立地分析それぞれの城跡をGISにより地質ごとに分類した.地質は,白亜紀後期に形成された花崗岩と花崗閃緑岩および花崗斑岩の広島花崗岩類を「花崗岩」,白亜紀後期に大規模火砕流として噴出した高田流紋岩類を「流紋岩」,中生代の玄武岩質安山岩など流紋岩類以外の「火山岩」,古生代の斑れい岩など花崗岩類以外の「深成岩」,三郡変成岩類などの「変成岩」,「付加体」,第四紀に形成された堆積層の西条層などを「第四系」,それ以外の「堆積層その他」,の8種類に分類した.その結果,東広島市・呉市・竹原市では「花崗岩」に立地する城跡が,それぞれ68.5%,71,4%,60.0%と最も多かった.安芸高田市では「流紋岩」が66.1%と最も多かった.岡山県の城跡が立地する地質は,「花崗岩」が26.0%と最も多かったが,その他の4種類の地質にも11~17%程度の城跡が立地していた.遺構図による調査遺構図に土砂崩れ跡が記載された城跡を抽出した結果,遺構図が有る城跡のうち,土砂崩れ跡が記載されている割合(土砂崩れ跡記載率)は,東広島市が45.1%,呉市や竹原市もそれぞれ30.8%,58.3%であった.しかし,安芸高田市では6.8%と記載率が低い結果となった.さらにそれらを立地する地質別に分類すると,東広島市・呉市・竹原市では「花崗岩」が80.4%・100%・42.9%で,安芸高田市は「流紋岩」が83.3%であった.また,立地する地質が偏っていない岡山県の城跡について同様に調査をおこなったところ,土砂崩れ跡記載率は25.8%で,地質別では「花崗岩」が最も高かった.しかし,「深成岩」や「火山岩」,「堆積層その他」に立地する城跡は,城跡数に対しての遺構図を持つ割合は「花崗岩」に立地する城跡よりも高いが,土砂崩れ跡記載率は低かった.これらの結果より,過去にも城跡では土砂移動が発生していたことがわかった.また,城跡が立地する地質で土砂崩れ跡が記載された数に違いがあること,特に「花崗岩」に立地する城跡が多いことがわかった.引用文献1.猪股雅美(2023)中世山城の特徴的な地形改変が土砂移動に与える影響.地質と文化,6巻1号,1-17.2.村田修三・服部英雄(2003)都道府県別日本の中世城館調査報告書集成18中国地方の中世城館(広島1・2).東洋書林,390p.3.岡山県教育委員会(2020)岡山県中世城館総合調査報告書.岡山県教育委員会,462p.4.産総研地質調査総合センター(2023)20万分の1日本シームレス地質図V2 GISデータ.https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#9(2023年6月閲覧)5.広島大学平成30年7月豪雨災害調査団 地理学グループ(2019)平成30年7月豪雨による広島県の斜面崩壊の詳細分布図(最終報告).日本地理学災害対応委員会.http://ajg-disaster.blogspot.com/2018/07/3077.html(2023年6月閲覧)6.伊達裕樹ほか(2010)広島県の災害データの解析による土石流・がけ崩れの特徴.公益社団法人地盤工学会中国支部論文報告集 地盤と建設,28巻1号,79-86.7.岡山県土木部防災砂防課(2023)過去の主な土砂災害一覧.岡山県,https://www.d-keikai.bousai.pref.okayama.jp/pc/kanren/kako.html(2023年6月閲覧)</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862710141893632
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_141
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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