徳之島産トゥファからのプラントオパール抽出と植生記録

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  • Phytolith extraction from recent tufa and the vegetation imprints in Tokunoshima

抄録

<p>石灰岩地帯の河川水より析出するトゥファは、炭酸カルシウムを主成分とする炭酸塩岩である。トゥファの粗密構造の季節変化や、不純物として混入する土壌成分の変化が成長線として保存され、堆積の方向や速度が容易に認定できる場合が多い。鹿児島県徳之島西部の小原海岸では、海岸斜面に湧出した地下水から、様々な形態のトゥファが広範囲に発達している。本研究では、トゥファに含まれる不純成分に着目し、プラントオパール(植物ケイ酸体)の抽出を試みた。プラントオパールは植物細胞を鋳型として形成される非晶質のケイ酸体であり、植物の分類群や器官に固有の形態を持つ。また、植物が枯死した後にも、土壌中などに長く保存されることから、過去の植生の復元に利用されている。未固結の土壌に比べて、トゥファでは堆積下方への混濁が起こりにくいばかりでなく、年や季節単位の時系列変化を読み解けるメリットが見込まれる。徳之島の小原海岸付近の小河川底(Site1)に発達したトゥファは、30cm程の厚さで堆積しており、泥を比較的多く含んでいる。また、年縞構造と安定酸素同位体カーブの認定により、約1cm/年の成長速度を持つと推定されている。当地のトゥファから、堆積方向に垂直な柱状サンプルを切り出し、さらに厚さ2.5cmごとの12の切片を作成した。各切片の空隙率には差異があり、乾燥重量は10gから20g程度である。まず、トゥファの切片を電気炉で加熱し、基質の炭酸カルシウムを生石灰(酸化カルシウム)とした。次に希塩酸で溶解した残渣から、プラントオパール以外を多く含む大径成分を篩分法により除去し、熱塩酸による脱鉄、沈降法による微粒成分除去、メタタングステン酸ナトリウム重液中での比重分離を行い、プラントオパールを抽出した。プレパラートへの封入、及び検鏡の結果、各試料中に数・種類ともに豊富なプラントオパールが含まれていた。トゥファの堆積環境周囲の自然植生を考慮すると、ハチジョウススキ(Miscanthus属)やリュウキュウマツ(Pinus属)に由来すると思われるプラントオパールが多く含まれていたほか、ヤシ科(Arecaceae)のような暖地に特有の植物のプラントオパールも僅かに含まれていた。過去30年程度をカバーする12切片中のプラントオパールの種組成変化は、周辺地表の掘削や整地による土壌粒子や植物遺骸の供給バランス変化や、地表流の流路変化を反映したものと思われる。小原海岸のトゥファの堆積環境には、人為的に開拓された畑地からも、地表流によって泥粒子が運搬されている可能性があり、サトウキビ(Saccharum officinarum)やバナナ(Musa × paradisiaca)などの栽培植物のプラントオパールも含まれている可能性がある。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862710142163712
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_79
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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