病院の入り口に立てない人の支援 : 無料低額診療事業の現代的意義と課題

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  • ビョウイン ノ イリグチ ニ タテナイ ヒト ノ シエン : ムリョウ テイガク シンリョウ ジギョウ ノ ゲンダイテキ イギ ト カダイ
  • Modern Significance and Issues on the Free / Low-cost Medical Treatment Program

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医療アクセスの格差は世界的に観察されている。貧困の拡大が明らかな日本においても、憲法25条に定められた生存権の根幹ともいうべき医療保障が揺らいでいる。こうした医療をめぐる状況のもとで、明治期に原型を持つ制度である無料低額診療事業の重要性が、いまあらためて増しているが、必ずしも社会的認知度が高いとは言えない。  無料低額診療事業とは、生計困難な人が経済的理由によって必要な医療を受ける機会が制限されないように、無料または低額な料金で診療を受けられる制度である(社会福祉法第2条第3項に規定する第二種社会福祉事業)。社会福祉法に基づく無料低額診療事業は、実施医療機関に医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)の常勤配置が義務づけられ、医療以外の生活面の問題解決も支援する制度である。このことは、無料低額診療事業が生活問題解決の有力な人的手段を持っていることを意味する。近年の複合的な課題を抱えている生活困窮者や社会的孤立の問題ともあわせて考えると、無料低額診療事業は、医療を保障するとともに、生活問題解決のための福祉的支援につなぐための制度としての役割がいっそう期待されているといえる。  しかし、無料低額診療事業がますます必要とされているにもかかわらず、行政側は減免された自己負担額を直接補填するのではなく、税制面による間接的な優遇措置を設けるにとどまっており、他の福祉制度と比較して、制度としての安定性に欠ける。また、無料低額診療事業が低所得者への恒久的な制度として利用できるものではなく、生活保護制度などの他の制度に繋ぐための橋渡し的な制度にならざる得ない点があり、広く普及していない課題もある。  このように無料低額診療事業の構造的な課題を抱えつつ事業を運営している全日本民主医療機関連合会(通称:全日本民医連)等を中心に、実態調査が進みつつある。また、無料低額診療事業の意義や役割、制度や実績を明らかにして、全体像をまとめている資料もある。今後は、無料低額診療事業が医療を保障するとともに、生活問題解決のための福祉的支援につなぐための制度として、どのように発展できるかを検討する必要がある。そのために、無料低額診療事業がどのように運用されているかについて、より詳細に把握することが課題となる。  そこで本研究は、無料低額診療事業の実態把握と効果の検証を行うために、同事業の利用に至った患者の背景特性について分析するとともに、受診支援にとどまらない生活面の問題解決の支援の実態を明らかにすることにより、同事業を医療だけでなく地域での生活を支えるという枠組みの中で、今後の改善、発展方向を検討するための基礎資料とすることを目的とする。これらをふまえて、明治期には自力で歩けない程度の「行き倒れ」の人を救済するための制度であった同事業が、いまあらためて求められている現代的意義について考え る。

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