別府市における留学生の創業による定位

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  • Emplacement by start-up by international students in Beppu city

抄録

<p>Ⅰ はじめに日本は人口減少と労働力不足に直面しているが,政府は永住を前提とする補充移民で人口減少を補う政策を否定し,有期の在留資格を外国人に付与する労働力輸入策を採り続けている.2008年に始められた「留学生30万人計画」も,その一環であるといえる.留学生は日本への順応性が高い人材と目され,卒業・修了後の定着が政策的に図られている.現状では,外国人は大都市圏に集中する傾向が強く,地方圏にあっては第一次産業や第二次産業に従事する技能実習生などが中心となっている.そのため,地方圏における外国籍高度人材の受け入れ促進が課題とされているが,留学生を対象とする場合には,その大半が大都市圏の大学等に所属しているという条件が立ちはだかる.大分県は,留学生を多数受け入れている大学が別府市に立地しているため,地方圏にありながら,人口当たりの留学生数が最上位の都道府県である.しかし,日本に就職するとしても大都市圏に流出する傾向が強いため,留学生の卒業・修了後の定着を促進する施策が県などによって展開されてきた.その際の問題は,高度人材とみなされる留学生が希望する就職先が県内に乏しいことである.そこで大分県は,留学生による創業支援を図っており,留学生による創業は徐々に増えつつある.留学生による創業について,留学生の主体性に焦点を当てた研究は少なく,地方圏における事例はさらに乏しい.本報告は,卒業・終了後に別府市で創業した留学生の定位の過程を明らかにする研究の中間報告である.ここで定位とは,自らの状況を認識したうえで,主体的に地理的・社会的空間に自らを位置づける過程を意味し,ホスト社会への定住や同化に向かうとは限らない. Ⅱ 背景の説明留学生による起業・創業は,日本の経済を活性化させ,雇用を生み出すことが期待されている.2020年に閣議決定された第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』は,在留資格制度の見直しなどにより,留学生による起業の円滑化を実現するとした.それを具体化した在留資格として,特定の大学等において在籍中から起業活動を行っている留学生に対して「特定活動」が付与されるようになった.同年には,経済産業省が認定した自治体が,特定の事業分野において起業準備活動を行う外国人に対して,一定の条件の下で在留資格「特定活動」を付与する外国人起業活動促進事業も始まった.大分県は,国に先んじて留学生による創業支援を実施してきた.留学生が特に多い別府市には,2016年に支拠点施設であるおおいた留学生ビジネスセンターが設置された.創業者は格安で個室や専用ブースを利用でき,常駐しているIMから支援を受けることができる.外国人起業活動促進事業が始まると,大分県はその参画自治体となった.大分県は,この事業の利用を希望する外国人に対して,指定する施設への入居を条件としており,おおいた留学生ビジネスセンターはその一つとなっている. Ⅱ 調査・分析 本報告の基となる調査は2020年に開始し,現在も継続している.その過程では,創業した(元)留学生に加え,創業者ではない(元)留学生や,様々な立場から留学生に関与している人々に対してもインタビューを数多く実施し,留学生が創業し自らを定位する「別府」の場所性を理解するように努めた.サンプルが十分ではないが,スリランカやバングラデシュ,アフリカなどからの留学生の創業が目立つ.日本で就職する際に母国語の能力が評価されにくく,出身国において日本に留学したことが評価されにくいことが,創業を選択することと関係している可能性がある.エスニシティを押し出した飲食業のほか,貿易や人材ビジネス,OEM生産など,出身国と日本とをつなぐビジネスモデルがみられる.それは利潤追求にとどまらず,出身国と日本の懸け橋になることや,出身国の生活を改善したいといった動機と合わせて語られることが多い.ソーシャル・ビジネス的色彩の強さは,大都市圏における利潤追求ではなく,創業者としてあえて別府市に自らを定位する意思決定と関連している可能性がある.付記:本報告は科研費(20H01398基盤研究(B))の成果である.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659587200
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_109
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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