京都市都心周辺地域における京町家の残存要因

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書誌事項

タイトル別名
  • Factors contributing to the survival of <i>Kyomachiya</i> (Traditional Wooden Townhouse) in the surrounding areas of central Kyoto City
  • Focusing on the ownership relationship between lands and buildings
  • ―土地と建物の所有関係に着目して―

抄録

<p>Ⅰ はじめに  近年,高齢化の進行や若年層の離家等により,都市における空き家の増加が問題となっている.空き家の問題点としては,防災・防犯・環境衛生上の問題のほか,管理不全による家屋倒壊の危険性,場合によっては行政代執行による撤去費用が生じることが挙げられる.空き家対策の手段としては,撤去とともに空き家を活用するというアプローチがある.特に伝統的建造物などは,積極的に保全が推奨され,それらを構成要素として形成される景観はその地域の文化やアイデンティティ,観光資源的価値を有するものとして,保全・再生が図られている.伝統的建造物の保全と活用については全国的に様々な取り組みがみられるが,なかでも京都市が推進する新景観政策は景観保全を目的とした規制の強化として注目を集めた.京都市において,1950年以前に伝統軸組工法により建築された木造建築物である京町家は年率1.7%のペースで減少しているが(京都市,2017),1990年代後半の「町家ブーム」以降,その価値が見直され,カフェや事業所として活用される事例が増加している.しかし研究されてきた京町家の活用には業種と地域に偏りがみられる.京町家を含めた歴史的建築物の活用については,所有者の意向や意思決定が大きな影響力を持つことが推測されるが,従来の研究では,建物の所有関係が重視され,土地の所有関係による影響は考慮されていない(髙田,2015;張,2022など).建物の所有関係のみに着目した研究が多い中で,土地と建物両方の所有関係に注目することは,所有関係パターンによる影響の違いを分析できる利点がある.そこで本研究では,京町家を事例に,空き家に関する地理学の先行研究で地理的変数として検討されてきた接道条件などに加え,土地と建物の所有関係が町家の活用に与える影響を明らかにすることを目的とする.</p><p>Ⅱ 調査の概要  本研究では,京都市と立命館大学,市民団体との共同で過去4期にわたって行われてきた「京町家まちづくり調査」の追跡調査として,京都市北区柏野学区を対象に京町家の残存状況,空き家判定,建物用途,滅失後の用途について外観調査を行った.その上で追跡調査において住居または事業所として活用がみられた京町家373件の居住者・事業者を対象として,調査票を用いた個別面接調査を行った.調査項目として,土地と建物の所有関係や今後の保存意向,後継者の状況,補助金や制度に対する認知などを設定し,調査員が訪問し他記式によって実施した.有効回収票は108件で回収率は29.0%であった.</p><p>Ⅲ 結果・考察  外観調査の結果,2016~2023年の滅失率が年率2.2%であり,前回調査(2009~2016年の滅失率:1.6%)と比較して滅失が加速している.また空き家率は20.3%であり,前回調査時の10.0%から上昇し,2018年の住宅・土地統計調査に基づく京都市の住宅全体の空き家率(12.9%)よりも高くなっている.建物用途は,簡易宿所として活用される町家が出現し,事業所利用の構成比が高まっている.京町家が滅失した後の土地の用途については戸建住宅が最も高い割合(71.6%)を占めていることが確認された.この背景には専用住宅と比較して広い敷地面積を要する施設は複数の土地を合わせて開発する必要があるため,京町家の特徴の1つである間口の狭さが大規模な開発を抑制していることがうかがえる.また細街路の多い調査地においては,露天駐車場が一時避難場所として使われている事例もみられた.次に,活用されている京町家居住者・事業者への調査票調査の結果,子世代の離家により後継者不在の町家が多く存在することが確認された.今後,独居老人や高齢夫婦の住む町家が,空き家化あるいは滅失していく可能性がある.その際に所有関係による影響として,持ち家・持地パターンは後継者が決まっている場合が多く,その後の活用に対しては後継者の意向が大きい.持ち家・借地パターンについては,町家の所有者が取り壊し費用を負担できずに,滅失を免れている事例が確認された.また,借家・借地パターンは,後継者を必要としていない場合が多いほか,安価な家賃収入でも維持されている事例や,居住者が強制退去させられて滅失してしまう事例などがあり,家主の影響が大きい. 以上のように,地域の変容が進む柏野学区において京町家の居住者・事業者が共通して抱える課題として,維持・修繕にかかる費用の問題が挙げられた.現行の補助金の制度は補助額や手続きの手間,認知度の低さにより,活用されていない現状がある.そのため,必要な修繕がなされずに京町家の状態が悪化し,本来価値の高い貴重なものであるはずの京町家が,負債として後継者にのしかかっている.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659588608
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_115
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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