シングルファザーが孤立する空間と近代家族観

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  • The spaces where single fathers feel out of place under the view of modern family

抄録

<p>Ⅰ 研究の目的 本研究では,人々が理想としてきた「近代家族観」に当てはまらないひとり親世帯のうち,母子世帯に比べて自立した生活を送っていると捉えられがちな「父子世帯」に焦点を当て,そのシングルファザーがいかなる空間でどのように孤立するのかを,ジェンダー地理学の観点から明らかにすることを目的にしている. Ⅱ 先行研究 日本の地理学におけるひとり親世帯研究はこれまで,居住問題や経済的貧困に焦点を当てた母子世帯やシングルマザーの研究に偏ってきた.一方で,居住問題が起こりにくい父子世帯の場合,地理学ではその姿を捉えることは難しく,研究蓄積は皆無に等しい.由井・矢野(2000:20)はひとり親世帯について「地理学からどのようなアプローチが適切であるか」を検討すべきとしたものの,その議論が十分になされていないのが現状である.シングルファザーも近代家族観を通じた性別役割分業のもと,日常生活のさまざまな空間において疎外と孤立を経験している可能性はある.そこで本研究では,ジェンダー地理学の観点から地図に描くことのできないミクロな空間に着目して分析する(村田 2002). Ⅲ メディアに描かれたシングルファザーの空間的孤立 シングルファザーを研究する際,インフォーマントを得ることが困難であることがしばしば指摘されてきた.また,本研究は日本の地理学におけるシングルファザー研究の第一歩とするために,まず日本で刊行されているシングルファザーの関連書籍やエッセイを言説資料にして,空間に関する言説のテクスト分析を行った.言説資料では職場,家庭,地域,学校および保育施設,役所といった多種の生活空間において,たとえば子育てによる制約から職場での「男のつきあい」ができず異質な他者として排除されたり,地域や学校やでは,女性中心に創られた空間のもとで他者化され,居づらさを感じて孤立するシングルファザーの姿が確認された.さらに,公共性の高い役所でさえ,企業戦士としての「男らしさ」を内面化している職員から男らしく働くように促され,相談する先を見失って孤立する様子も明らかになった. Ⅳ 従来の「男らしさ」と向き合うシングルファザー そこで3名のシングルファザーにインタビュー調査を行い,言説に資料でみられた現象の解釈の妥当性を確かめたり,テクスト分析からは明らかにされなかったシングルファザーの孤立を探ることを試みた.そこでは,テクスト分析でみられたように,職場でも家庭・地域でもシングルファザーの男性を異質な存在として他者化するまなざしを,「生きるためには仕方ない」と受け入れるシングルファザーの姿が明らかになった.すなわち,近代家族観のもとで男性の権力構造を支えた職場/家庭の空間がかえってシングルファザーを孤立させる空間的装置になっていることが議論された.ところが,リモートワークのような昨今の新しい技術に裏打ちされた働き方の変化によって,職場と家庭という空間の境界線は再びあいまいになり,家庭や地域の人間関係をシングルファザーが再構築できる可能性も示唆された.従来の「男性性」の再構築を図ることで,男性を他者化するまなざしをなくし,シングルファザーの孤立を防ぐことができるのではないかと本研究では結論づけたい. 文献 村田陽平 2002.公共空間における「男性」という性別の意味.地理学評論75-13:813-830.由井義通・矢野佳司 2000.東京都におけるひとり親世帯の住宅問題.地理科学55-2:77-98.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659591680
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_122
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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