浸水被害軽減に向けた浸水推定図の活用方策の検討

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タイトル別名
  • Study on utilization of Provisional Inundation Depth Map for flood damage mitigation
  • Spatial analysis with landform classification and population data in inundation area of Chikugo River Basin
  • 筑後川流域の浸水範囲の地形,人口データとの空間分析

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 世界的な地球温暖化により,今後,豪雨の頻発が懸念されている.令和5年7月には筑後川水系で豪雨による浸水被害が発生している.筑後川流域は,洪水に関する自然災害伝承碑が複数登録されており,令和2,3年にも甚大な浸水被害が発生しているなど,度重なる豪雨災害の歴史がある.国土地理院では,平成 30 年7月豪雨から,大規模な水害が発生した際にSNS 上に投稿された被災状況の画像や高精度な5m メッシュ標高データを用いて,浸水範囲と浸水深を推定した地図「浸水推定図」を作成している.浸水推定図は,災害時に排水ポンプ車の配置や保険会社の迅速な支払い対応等に活用されている.これらの資料は,当時の浸水状況を記録する重要な資料であり,将来の被害軽減検討にも活用可能な情報と考える.令和6年能登半島地震では高齢者の安否確認や避難が課題の1つとなっている.今後更なる少子高齢化が予測されており,様々な災害対策において地域の脆弱状況の把握を踏まえた対応が必要と考えられる.本研究では,筑後川流域で作成された浸水推定図をもとに,治水地形分類図,総務省の国勢調査の結果と重ね合わせ,地形分類別の浸水特徴や浸水地域の人口構成を分析し,今後の浸水被害軽減に向けた視点から浸水推定図の活用を検討した.</p><p></p><p>2.研究方法</p><p> 本研究は,令和5年7月豪雨,令和2年7月豪雨の際に筑後川下流で作成された浸水推定図の範囲を対象として行った.浸水推定図は,過去6年間で8つの災害について作成しているが,同じ地域で異なる災害の作成については,現在のところ今回の対象地域と佐賀県六角川と事例は少ない. 浸水推定図の情報を治水地形分類図「鳥栖」ほか8面のデータとともに定量的に比較し,浸水した範囲の地形的特徴,地形分類別の浸水深を分析した.さらに,令和2年の国勢調査の5次メッシュ(4分の1地域メッシュで約250m四方間隔)データと重ね合わせて分析し,地域防災の観点から分析した.</p><p></p><p>3.結果と考察</p><p> 浸水した範囲の地形分類は,氾濫平野が9割弱を占めていた.それ以外に複数の河川の合流点付近の旧河道や微高地(自然堤防)も浸水しており,それらの地形分類を加えると100%近くを占めている.旧河道の浸水深は他の地形分類に比べ深い割合が多く,防災上特に留意すべき地形と考える.微高地は,浸水していない箇所も多くみられている一方で,微高地の縁辺部が浸水している箇所も多数見られ,浸水深の頻度分布は氾濫平野のものとほぼ変わらない.微高地の縁辺部は,防災上,氾濫平野と同様の考慮が適切と考える.令和2年と令和5年の2時期の浸水状況を比較した結果,令和5年の浸水範囲の多く(8割弱)は令和2年の際も浸水しており,同じ個所が被害を受けやすい.一方で,令和2年に被害を経験しない箇所でも,令和2年の被害箇所近傍で令和5年の被害が発生しており,浸水被害を想定した備えは重要である.令和2年の人口分布と地形分類を比較すると,人口が多いメッシュは段丘面や微高地周辺に集まっている傾向がみられ,全体的には浸水被害に対して安全側の居住分布になっている.しかし,浸水又は周囲が浸水した場所に,人口が多く,高齢者世帯数も多いメッシュが局所的に存在した.そのような1つである久留米市北野町周辺を調べた.この地区は,治水地形分類図上は北側が微高地で古くから居住,南側が氾濫平野や旧河道となっており,一部の水田は昭和50年代から宅地開発され,現在居住区となっている.南側の居住区と水田部について,基盤地図情報(数値地形モデル)5mメッシュ(標高)や浸水深の違い,過去のDSMと比較した結果,宅地化する際に1m程度盛土したことにより,かつては氾濫平野や旧河道であったものの浸水被害を軽減していることが推測された.また,この地域は生産年齢人口(15-64歳)に対して同程度の割合の老年人口(65歳以上)のメッシュや,年少人口(0-14歳)の割合が多いメッシュが混在しており,災害情報伝達,防災訓練などの検討には異なる年齢構成の視点が必要な状況であることが推測された.</p><p></p><p>4.おわりに</p><p> 浸水推定図は災害時の対策に活用されるだけでなく,治水地形分類図や国勢調査といった他の情報と重ね合わせることにより,浸水被害の推定や浸水リスクの高い箇所の人口特性などを分析することができ,宅地開発における盛土嵩上げや地域防災力の向上等の浸水被害軽減に向けた検討に活用できると考えられた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659596672
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_131
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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