宿泊業労働者の経歴からみた長野県軽井沢町への労働移動

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  • Labor mobility to Karuizawa from a perspective of accommodation industry worker's background

抄録

<p>Ⅰ 研究の目的とその背景                 </p><p> 本研究では,長野県軽井沢町を事例に,宿泊業労働者の軽井沢町への労働移動がどのような意図のもとになされているのかを,特に彼らの経歴に着目することで把握することを目的とする.</p><p> いうまでもなく,COVID-19の前後において日本の将来の経済成長を担う中核産業として,観光産業には注目が集まってきた.その中でも宿泊業は,観光産業と地域経済の両方をけん引しうる中心業種として位置付けられている.リゾート地としても称される観光地は,自然資源や季節性と密接に関連して成り立つ場所であることから,これらは一般的に非都市部に位置する場合が多く(小室 2020),観光産業も必然的にそうした地域への立地を伴うこととなる.このような地域は,都市部と比較して,通勤可能な範囲である地域労働市場内の労働力のみでは不足となるため,海外のリゾート地においては,地域外からの移動による労働力供給の必要性が指摘されてきた(小室 2020).この傾向は,日本においても同様であると考えられ,特に宿泊業の基幹労働力である正規従業員の確保において,その必然性が高くなる.具体的なものとしては,企業内転勤移動,転職移動,新規学卒採用などが挙げられる.ここでは,主にこうした形態による地域外からの流入を労働移動として位置付けて考察を行っていくことにする.</p><p> 観光産業の労働力に着目した研究は,特に宿泊業を対象として蓄積されてきた.そこでは,もっぱら事業体を中心にした分析が展開されており,労働生産性の低さが指摘される宿泊業において,いかにその向上を達成するかに関心が払われてきた.併せて,離職率の高い同業界において,いかにして企業からの離職を防ぐかといった視点からの考察がなされている.地理学と領域を接する社会学においても宿泊業労働に関連した研究が行われているが,それは戦後から2000年代初頭までに見られた,かつての旅館労働力の状況をジェンダーの観点から浮き彫りにしたものに留まっている.本研究において,非都市部に位置する観光地の宿泊業労働者がいかなる目的をもって移動してくるのかを把握することは,とりわけ人口減少と少子高齢化が加速的に進む非都市部での持続的な労働力の確保を考えるうえで,その基礎的な資料を提示できる点で意義を持つ.以上の認識から,本研究は労働者の経歴に着目することによって,長野県軽井沢の宿泊業への労働移動がどのような意図のもとになされているかを考察するのである.</p><p>Ⅱ 調査結果</p><p> 紙幅の都合から,より詳しいデータについては,本発表時にて言及する.本稿の執筆時点での調査対象者の移動理由は,①転勤・転職移動を問わずキャリアアップを目的とした動機のほか,②軽井沢町およびその周辺自治体出身者による地元還流・定着を意図した移動が散見される.</p><p> 転職移動によってキャリア追求を成し遂げようとする事例は,宿泊業の内部労働市場におけるキャリアパスの不透明さが背景にある.裏を返せば,ここでの見通しが良好な場合には企業内転勤という受動的な移動であっても,労働者のキャリア構築意向と合致したものとして受容され,自身による能動的な移動としても読み替えが可能である.また,キャリア追求による転職移動において,非都市部である軽井沢町の宿泊業が選択される理由は,都市部の宿泊業と比較した際の就業希望の相対的な低さから,キャリア上昇を見込める可能性が高まることが要因にあると考えられる.このほか,「軽井沢」という場所のブランド的魅力が移動の理由として作用する事例が確認される.</p><p> 地元還流・定着を意図した移動においては,自身に所縁のある地域で働き,生活することを志向する際に,宿泊業が地元雇用の受け皿として機能している様相が看取できる.この地元志向に基づく移動は,転勤移動においても確認できる.それは,宿泊業界全体での人手不足および,都市部と比較した際の非都市部での人手不足という二重の状況が関係している.ここでは,こうした現状を利用して転勤移動を積極的に活用し,安定した雇用条件のもとで自身の地元で働くことを成し遂げようとする事例と解釈できる.</p><p>【文献】小室 譲 2020. ウィスラーにおける能動的国際移動者</p><p>    の実態―国際山岳リゾートにおける地域労働市場構造</p><p>    解明にむけて―. 経済地理学年報 66: 161-176.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659601792
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_144
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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