世界各国の学校地図帳の地理教育における利用についての一考察

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  • A study on the use of school atlases from around the world in geography education

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 地図帳にはその国の全貌を捉え示した国勢地図帳や、道路地図帳のように、利用目的を絞ったものなどがある。教育目的での地図帳は初等教育、中等教育など、児童・生徒の発達段階に見合ったものが作られており、「学校地図帳(School Atlas)」と呼ばれている。</p><p> 学校地図帳については、多くの議論がされ研究の対象となっている(中村、2010)。多くは日本国内の学校地図帳を対象としたもので各国の地図帳を対象とした研究はそれほど多くはない。吉田(1990)は初等教育における学校地図帳についてイギリスのものを取り上げ、比較検討を行った。初等教育での地図帳は地図への入門であるが、中等教育での地図帳は、一般市民としての必要とする空間情報についての知識の集合体、総論といえよう。</p><p>2.各国の学校地図帳の実状</p><p> 集めた50冊ほどを眺めると、伝統的な学校地図帳の出版社であるイギリスのCollins社やPhilip's社、Oxford社、ドイツ・Diercke社は初等教育、中等教育ごとに多くの種類が出されている。Collins社やPhilip's社、Oxford社はカリブ海諸国、ニュージーランド、香港、カナダなどの学校地図帳も出版している。Philip's社は、ノルウェーのGyldendals skoleatlasやオランダのBosatlasへ一般図を提供している。ハンガリーのcartographia社は自国の学校地図帳を多種発行しているとともに隣国ルーマニアの学校地図帳も発行している。これらは、それぞれの自国の一般図主題図以外のページは言語以外はほぼ同じ構成・図版である。同じようなケースがラトビアのJāņa sēta社にもみられ、同社はラトビアの各種学校地図帳を出版するとともに隣国エストニアの学校地図帳も同じ構成で出版している。日本の学校地図帳と比較して、サイズはやや大型、最初に地図学習全般の解説があり、主題図のデザインに統一性があり、一般図に掲載されている地名が索引に網羅されているなどが感じられる。</p><p>3.各国の学校地図帳の教育利用へのアイディア</p><p> 地理の学習は、各国共通の視点はあるものの、その国の位置などによって、国によって注目点は異なる。それに基づく学校地図帳も各国によって異なる。その国の生徒の教育のために作られているので、その国を言語が使われるなどは当然であり、その国から見方・考え方が反映されている。紙の地図帳は紙面という変更ができない中で、サイズやページ数という制約のもとで工夫して作られたので正確さ、信ぴょう性などの成果物としての完成度は高い。諸外国を学ぶにはよい教材である。教員利用の視点からは、教師自身の知識を深めるともに、教材研究のツールとして、そして授業や考査などでの提示教材としての利用が期待できる。</p><p>4.授業での利用</p><p> 各国の学校地図帳を見ていくと、その国の様子を深く知ることができる。そして、世界全体の様子を詳しく見ることで、それ自体の理解が進む。世界の国が世界をどのように捉えているかを知ることができる。日本付近を見ることで、日本をどのように捉えられているかを知ることができる。教育現場で示してみることは生徒にとって興味深いだろう。そこで、授業にて受講生徒個々へ1冊ずつ配布して①地図一般の基本事項②その国の様子・特徴③その地図帳自体の様子・特徴の三観点に関して注目点を示して見てもらい、感想や気づきを報告してもらった。発表者の勤務校である千葉県立千葉高等学校では地理は第一学年で必修(320名)の他、第三学年に選択科目で設置され約半数の生徒が受講している。第一学年の必修科目は旧課程で地理A、新課程で地理総合であり、第三学年の選択科目は旧課程では文系は地理B、理系は学校開設科目地理特講で、新課程ではどちらも地理探究となる。第三学年で「世界の諸地域の地誌的考察」を扱うことから、ここで実施した。受講生徒150名ほどの感想や気づきをまとめてみたものが図2である。「詳しい」「大きい」といった一般的なことや、「気候」「都市」「地名」「主題図」など地理の一般的なこと、「アジア」「ヨーロッパ」「ロシア」「インド」など国名や地域名などが記載されていたが、「日本」「領土」「竹島」「北方領土」など、日本がどのように扱われているか、特に領土についての関心が多い。</p><p>5.まとめと展望</p><p> 各国の学校地図帳はその国の地理教育を概観するのにとてもよく、また、その国の部分が詳しく書いてあるのでその国の地誌、地理を理解するのには非常に効果的である。また、これらの観点から研究の対象としても有意義である。</p><p>参考文献</p><p> 吉田和義 1990.イギリスと日本における小学校地図帳の比較研究.新地理 38-1:1-10.</p><p> 中村剛 2010.地理教育における地図帳活用に関する事例と検討課題.地図48-2:29-34.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659616768
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_173
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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