人口稀薄地域において並行する鉄道とバスの連携とその課題

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タイトル別名
  • Coordination between parallel railways and buses in sparsely populated areas and its challenges
  • Case Study of JR Shikoku
  • JR四国による取組みを事例に

抄録

<p>Ⅰ 初めに</p><p> 日本では交通事業者ごとの経営判断によって交通網の改編が行われてきたことから,事業者間の連携が困難であり,異なる事業者の路線が並行・競合している場合がある.人口密度が低く独立採算での事業が困難な地域でも,鉄道の市場からの退出は事実上困難であり,また路線バスは補助制度が整備されており,不採算となっても維持しやすいことから,多くの地域で不採算路線が並行・競合している.</p><p> 一方で利用者の立場から考えると,一般に交通需要は派生需要であることから,目的地への移動時に並行する複数事業者の路線が利用可能であるならば,いずれを利用しても構わない.しかし実際には,一方の事業者の乗車券はその事業者でしか利用できないことから,待ち時間が余計に発生したり,別途運賃を支払わなければならなかったりと,利用者にとって不便な状況が存在することを,発表者は指摘したことがある(柴田 2024).</p><p> 人口密度の低い地域において複数事業者の路線が並行している場合,各事業者の経営判断に任せたままでは,人口減少が続く中で減便による利便性の低下が避けられない.またそうした地域における公共交通は,不採算であっても最低限必要なサービスとして補助金により維持されている状況であり,複数事業者の競争による改善は見込めない.そのため,各事業者の路線を維持するという前提に立つのであれば,事業者間の調整・連携によって利便性を向上させつつ,収支の維持・改善を図ることが望ましい.日本において,並行する鉄道とバスが調整・連携する事例は,同一企業グループの場合を除けばこれまでほとんど見られなかった.しかし,全国的に人口減少と公共交通機関の利用者の減少が進む中で,今後は鉄道とバスも調整・連携を行うことにより交通手段の確保を進めていく必要があり,そのための事例の分析や他地域での展開可能性を検討する必要がある.よって本発表では,並行する鉄道と路線バスの連携の状況を分析し,成果と課題を明らかにすると共に,他地域への展開可能性について検討することを目的とする.</p><p></p><p>Ⅱ 対象とする事例</p><p> 事例としては,2022年から実施されているJR四国(牟岐線)と徳島バスの共同経営,2022年に実施されたJR四国(高徳線)と大川バスの実証実験,2023年に実施されたJR四国(予土線)と四万十交通の実証実験を取り上げる.</p><p></p><p>Ⅲ 考察</p><p> ①実証実験後の本格的な実施について.実証実験で生じた費用は各県の一時的な補助金で補塡してきたため,実証実験後の恒久的な取り組みに向けては,各関係主体の負担割合の決定が課題となる.特に広域自治体である県における線区の位置付けが一つの障壁となっており,市町村単位では主要な交通路である一方,県単位では一部地域を通るに過ぎないため,その線区に補助金を交付することに対する県民の理解が得られるかが問題となる.</p><p> ②地域間幹線系統補助との整合性について.鉄道(普通列車)と路線バスのそれぞれが対応する需要は全く別個のものではなく,地域によっては大きく重複しているにもかかわらず,鉄道には運営費に対する補助制度が基本的に存在しない一方,路線バスには地域間幹線系統補助による国庫補助金の交付制度や,関連する自治体の補助制度が存在する.地域間幹線系統補助の目的や位置付けを検討すると共に,交通機関(モード)ごとの維持制度ではなく,通学や通院等の移動手段を保障するため,モードにかかわらず必要な公共交通を提供することを目的とする補助制度を考える必要があるのではないか.</p><p> ③収支改善に対する効果について.「徳島県南部における共同経営計画」の計画期間5年間の収支シミュレーションにおいて,JR牟岐線阿南以南では約8億5,000万円の赤字から約10万円,徳島バス室戸・生見・阿南大阪線では約2,760万円の赤字から約40万円,共同経営を実施しなかった場合と比べて収支が改善すると想定されている.すなわち,共同経営によって大きく収支が改善し路線の維持につながるといったことは,特にインフラ産業であり多額の維持費が掛かる鉄道については期待できない.既存の路線を維持し活用することを前提とすれば,共同経営によって公共交通利用者の利便性が改善し,ひいては地域の魅力が向上するという効果が期待できるが,そうした可能性を踏まえつつも,鉄道路線やバス路線の維持方策は別途議論する必要がある.</p><p> ④共同経営も実証実験も,JR四国は金銭的負担が比較的大きい一方,バス事業者は金銭的負担が比較的小さい運賃精算方式となっており,他の鉄道事業者は必ずしも同様の方式ではバス事業者と調整・連携できないおそれがある.</p><p></p><p>文献</p><p>柴田卓巳 2024.人口稀薄地域における鉄道と路線バスの並行問題―北海道美深町を事例に―.運輸政策研究 26.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659617920
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_175
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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