「地誌」と「系統地理」の関係を小中高一貫で考える

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タイトル別名
  • The relationship between "regional geography" and "systematic geography" in elementary, junior high, and senior high schools
  • To build K-12 geography education curriculum
  • 小中高一貫地理教育カリキュラムを構築するために

抄録

<p>Ⅰ.はじめに</p><p> 本研究の目的は、小学校・中学校・高等学校の地理教育カリキュラムを、「地誌」と「系統地理」の二者の関係で一貫してとらえることである。</p><p> 地理学は古典的に、地誌学と系統地理学(自然地理学と人文地理学からなる)からなるとされることが多い。学校教育における地理教育は地理学教育ではない。しかし、特に中学校と高等学校については、「地誌」と「系統地理」という異なるアプローチを組み合わせたカリキュラムの策定が意識されてきた。</p><p> とはいえ、地誌と系統地理とは、それぞれ独立して機能するわけではない。系統地理は、各地の事例を参照しながら組み立てられる。地誌では、特定の地域のさまざまなテーマ・事象を複眼的にみて地域の特性を理解する。</p><p> そこで本研究では、表1で示した小中高の社会系教科の学習指導要領における地理関連の内容を中心に、両者の関係を把握する。</p><p></p><p>表1 小中高の社会系教科の学習指導要領における地理関連の学習内容</p><p></p><p>小学校 生活 1・2年</p><p>〔学校,家庭及び地域の生活に関する内容〕</p><p> (1) 学校生活に関わる活動</p><p> (3) 地域に関わる活動</p><p>〔身近な人々,社会及び自然と関わる活動に関する内容〕</p><p> (4) 公共物や公共施設を利用する活動</p><p> (5) 身近な自然を観察したり,季節や地域の行事に関わったりするなどの活動</p><p> (8) 自分たちの生活や地域の出来事を身近な人々と伝え合う活動</p><p></p><p>小学校 社会 3年</p><p>(1) 身近な地域や市区町村の様子</p><p>(2) 地域に見られる生産や販売の仕事</p><p>(3) 地域の安全を守る働き</p><p>(4) 市の様子の移り変わり</p><p></p><p>小学校 社会 4年</p><p>(1) 都道府県の様子</p><p>(2) 人々の健康や生活環境を支える事業</p><p>(3) 自然災害から人々を守る活動</p><p>(4) 県内の伝統や文化,先人の働き</p><p>(5) 県内の特色ある地域の様子</p><p></p><p>小学校 社会 5年</p><p>(1) 我が国の国土の様子と国民生活</p><p>(2) 我が国の農業や水産業における食料生産</p><p>(3) 我が国の工業生産</p><p>(4) 我が国の産業と情報との関わり</p><p>(5) 我が国の国土の自然環境と国民生活との関連</p><p></p><p>小学校 社会 6年</p><p>(3) グローバル化する世界と日本の役割</p><p></p><p>中学校 社会 〔地理的分野〕</p><p>A 世界と日本の地域構成</p><p> (1) 地域構成(① 世界の地域構成 ② 日本の地域構成)</p><p>B 世界の様々な地域</p><p> (1) 世界各地の人々の生活と環境</p><p> (2) 世界の諸地域(① アジア ② ヨーロッパ ③ アフリカ ④ 北アメリカ ⑤ 南アメリカ ⑥ オセアニア)</p><p>C 日本の様々な地域</p><p> (1) 地域調査の手法</p><p> (2) 日本の地域的特色と地域区分(① 自然環境 ② 人口 ③ 資源・エネルギーと産業 ④ 交通・通信)</p><p> (3) 日本の諸地域(① 自然環境を中核とした考察の仕方 ② 人口や都市・村落を中核とした考察の仕方 ③ 産業を中核とした考察の仕方 ④ 交通や通信を中核とした考察の仕方 ⑤ その他の事象を中核とした考察の仕方)</p><p> (4) 地域の在り方</p><p></p><p>高等学校 地理歴史 地理総合</p><p>A 地図や地理情報システムで捉える現代世界</p><p> (1) 地図や地理情報システムと現代世界</p><p>B 国際理解と国際協力</p><p> (1) 生活文化の多様性と国際理解</p><p> (2) 地球的課題と国際協力</p><p>C 持続可能な地域づくりと私たち</p><p> (1) 自然環境と防災</p><p> (2) 生活圏の調査と地域の展望</p><p></p><p>高等学校 地理歴史 地理探究</p><p>A 現代世界の系統地理的考察</p><p> (1) 自然環境</p><p> (2) 資源,産業</p><p> (3) 交通・通信,観光</p><p> (4) 人口,都市・村落</p><p> (5) 生活文化,民族・宗教</p><p>B 現代世界の地誌的考察</p><p> (1) 現代世界の地域区分</p><p> (2) 現代世界の諸地域</p><p>C 現代世界におけるこれからの日本の国土像</p><p> (1) 持続可能な国土像の探究</p><p></p><p>河本・牛垣・金田(2023)の表を一部修正して転載。</p><p></p><p>Ⅱ.方法</p><p> 表1に示した教科・分野・科目について、それぞれ採択率1位・2位の教科書を対象に、「地誌」と「系統地理」の学習内容のマトリックスを作成する。地誌の項目は、中学校の指導要領にある世界の諸地域と日本の8地方区分に、「身近な地域」を加えた形とした。系統地理の項目は、日本地理学会編(2023)の第Ⅱ部「自然領域―自然地理学」と第Ⅲ部「人文領域―人文地理学」の各節(気圏、水圏、経済関連、社会関連など)を基本にした。うまく収まらない内容は、第Ⅰ部「地理学の基礎」と第Ⅳ部「地理学の応用と現代的課題」の節構成を参考に「地図・GIS」「地理学のフロンティアと環境システム」「災害・防災・復興」「観光・ツーリズム・余暇活動」などの項目を設け、位置づけた。</p><p></p><p>Ⅲ.結果と考察</p><p> 小学校における「身近な地域の学習」は、その後の地誌学習における地域比較の基盤となる位置づけにある。他方、中学校における「地域調査の手法」「地域の在り方」や、高校「地理総合」のAやC(2)も「身近な地域」を主な対象としており、よく言われる「同心円的拡大」だけでは説明がつかない。その他については当日報告する。</p><p></p><p>文献</p><p>河本大地・牛垣雄矢・金田啓珠 2023.地理学の体系と小中高一貫地理教育カリキュラムとの関係を探る試み.地理,68(12): 86-93.</p><p>日本地理学会編 2023『地理学事典』古今書院.丸善出版.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659620352
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_18
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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