静岡県三島市源兵衛川における都市の水辺空間の総合的評価

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タイトル別名
  • Comprehensive Evaluation of Urban Waterside Spaces along the Genbe River in Mishima City, Shizuoka Prefecture

抄録

<p>1.目的と方法</p><p> 本研究では,都市中心部をいくつかの河川・水路が貫流し,行政や住民等による水辺空間整備や保全活動の取り組みが盛んな静岡県三島市を研究対象地域とし,そのなかでも水辺空間の整備・保全や活用において中心的存在といえる源兵衛川に着目する.そしてその都市内水辺空間の環境を,「人」「水」「熱」「音」の四つの側面から調査・分析することで総合的に評価することを目的とする.研究の手順としてはまず,「人」として,源兵衛川における行政や市民団体等による水辺空間整備や保全活動の歴史的経緯と現状を概観した上で,「水」「熱」「音」の三側面から,水質・水温・水量,気温・湿度・風向・風速,音圧レベルなどの現地観測調査を通じて,水辺空間としての環境を多面的に分析する.そして,それらを踏まえながら水辺空間への訪問者(「人」)による評価を分析することで,都市の水辺空間としての特性を総合的に考察する.</p><p>2.研究地域の概要と水辺空間整備</p><p> 三島市の中心市街地周辺は,約1万年前の富士山噴火によって流出した溶岩流(三島溶岩流)の末端に位置し,その溶岩流の中を流れてきた地下水が市街地の至るところから湧出している.そしてそれらの湧水を水源として,源兵衛川や蓮沼川,桜川,御殿川などの河川が市街地内を貫流している.</p><p> 源兵衛川では,かつての悪化した河川環境を再生・改修するために,「県営農業水利施設高度利用事業」(1990~1992年)および「県営水環境整備事業」(1993~1997年)が実施された.これらの事業では,市街地内を流れる約1.5kmの区間を8つのゾーンに区分し,それぞれの地域特性に合わせたコンセプトに基づいた親水空間が整備された.これらの事業による親水空間整備と並行するように,1990年代には三島市の水環境を再生・保全することを目的とした市民団体が相次いで設立され,現在でも定期的な河川の清掃活動のほか,ホタルや梅花藻の保全活動などさまざまな活動を実践している.一方,地下水位の低下による河川流量の減少に対しては,湧水群より上流側に立地する企業の協力によって,工場内設備の冷却用に使用した工業用水が通年的に源兵衛川へ放水されている.</p><p>3.結果と考察</p><p> 源兵衛川の水質は年間通じて良好であるといえる.これは,一部に市街地由来の負荷物質が流入しているものの,水源の大半が流域内から湧出している自然由来の地下水だからである.水温については,若干夏季の方が高いとはいえ大きな差はなく,年間通じて低いといえる.一方,流量は夏季と冬季で大きく異なり,冬季は非常に少ないものの,親水空間として主に利用される夏季には十分な流量がある.ただし河川形状や流速は地点によって異なることから,親水空間整備によって安全に水遊びできるところがある一方で,子どもにとって多少危険なところもある.</p><p> 源兵衛川の水辺空間の気温は,日中は冬季も夏季も周辺市街地より低い傾向にある.その要因の一つは,水辺空間周辺の樹木が日射を遮っているからであるが,夏季にはとくに水温の低さも水辺空間の気温低減に貢献しており,周辺市街地よりも3˚C程度低い涼しい環境が形成されている.一方で,冬季の夜間は周辺市街地より水辺空間の方が若干気温が高い.これは冬季には気温より水温の方が高いからであり,そのために水辺空間の寒さが幾分緩和されていると考えられる.</p><p> 源兵衛川の水辺空間の音圧レベルは,周辺市街地とは平均的には大差ないといえる.そのため閑静な住宅地内を流れる区間では,水辺空間も同様に静かである.それによって,夏季だけでなく相対的に流量が少ない冬季であっても水辺空間では心地よい水音を聞くことができる.</p><p> 以上を総合的に勘案すると,源兵衛川の水辺空間では,とくに親水空間として利用される夏季において,水環境・熱環境・音環境いずれも良好な環境が形成されており,水環境が熱環境や音環境にも影響していることが明らかとなった.また,水辺空間への訪問者による評価においても,水環境・熱環境・音環境いずれも概ね高評価を得ており,とくに水質の良さと涼しさの2点の評価が高い.一方で,安全性において相対的に高い評価とならなかったのは,流量が多い夏季には水深が深く流速が早いところがあることが一因である.これらのことからは,訪問者による水辺空間に対する主観的評価が,観測結果に基づく客観的評価とも概ね一致していることが示された.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659630080
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_196
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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