1990年代後半以降の日本の海面魚類養殖業における生産額の維持に関する統計的検討

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  • Statistical Consideration on Sustainment of the Value of Output in Japanese Marine Fish Aquaculture since the late of 1990s

抄録

<p>日本の海面魚類養殖業における生産額(以下,養殖生産額)は,高度経済成長期から1990年代前半にかけて急速に拡大したが,その後は停滞が続いている。しかしながら,海面漁業生産額は一貫して減少しているのに対して,養殖生産額は1990年代後半以降も相対的に維持されている。 1990年代後半以降の海面魚類養殖業を対象とした漁業経済学や漁業地理学の研究は,特定の地域の経営体の経営維持についてフィールド調査を通じて明らかにしたり(穂積 2024など),主要な生産県における経営体の構成の変化について漁業センサスの分析を通じて明らかにしたりした(佐野 2021など)。しかしながら,1990年代後半から現在にかけての,海面魚類養殖生産額(以下,養殖生産額)の維持について統計的に検討した研究は,管見の限り見当たらない。そこで本研究では,漁業関連統計の分析を通じて,1990年代後半以降の養殖生産額がどのように維持されてきたのかを明らかにすることを目的とする。 資料と方法 本研究では,漁業センサス,漁業・養殖業生産統計,漁業産出額を使用した。漁業センサスは西暦の末尾を3および8とする年に限り実施されることから,本研究では1998年と2018年を分析の対象とした。なお,2018年の漁業センサスの一部は,農林水産省による提供を無償で得たものである。</p><p> 以上の統計を踏まえ,日本全国と各都道府県を対象として次の4つの値を算出した。第1に,1998年と2018年における魚種別(ブリ類,マダイ,ヒラメ,その他魚種)の,養殖面積を10,000㎡以上とする大規模経営体による生産額(以下,大規模経営体生産額)と,10,000㎡未満とする中小規模経営体による生産額(以下,中小規模経営体生産額)である。第2に,養殖生産額の増加に対する,各魚種の大規模経営体生産額と中小規模経営体生産額の増減の寄与率である。第3に,各魚種の大規模経営体生産額と中小規模経営体生産額のそれぞれの増減に対する,経営体数と1経営体当たり生産額の変化の影響度である。第4に,各魚種の大規模経営体と中小規模経営体における1経営体当たり生産額の増減に対する,1経営体当たり養殖面積と1㎡当たり生産量と単価の変化の影響度である。</p><p> 全国単位でみると,ブリ類の大規模経営体生産額とマダイの大規模経営体生産額とその他魚種の生産額において,養殖生産額の増加に対する寄与率が卓越していた。いずれの魚種においても,生産額の増加に対する影響度としては1経営体当たり生産額が経営体数を上回っていた。1経営体当たり生産額の増加に対しては,ブリ類とマダイの大規模経営体のいずれにおいても,1㎡当たり生産量の影響が卓越していた。 都道府県単位でみると,ブリ類の大規模経営体生産額については鹿児島県と大分県と宮崎県において,マダイの大規模経営体生産額については愛媛県と熊本県において,その他魚種の生産額については長崎県と鹿児島県と宮城県において,養殖生産額に対する寄与率が卓越していた。このほか,ギンザケと考えられる宮城県のその他魚種や愛媛県のマダイにおいては,中小規模経営体生産額による寄与率が卓越していた。各魚種の生産額の増加への影響としては,熊本県のマダイの大規模経営体生産額を除けば,1経営体当たり生産額が経営体数を上回っていた。1経営体当たり生産額の増加に対しては,鹿児島県のブリ類養殖と愛媛県および熊本県のマダイ養殖の大規模経営体においては1㎡当たり生産量の影響が卓越していたが,1経営体当たり養殖面積や単価の影響が卓越していた都道府県ないし魚種も確認された。</p><p> 近年の海面魚類養殖業では,損益分岐点の上昇に伴い経営維持に向けては生産額の増加が求められていることから(小野 2013など),残存経営体が実際に生産額を増加させている可能性は高い。したがって,全体の養殖生産額の増加に対しては,主要産地の大規模経営体による生産額の増加が大きく寄与しているといえる。合わせて,宮城県のギンザケ養殖や愛媛県のマダイ養殖といった,国内市場で一定のシェアが確立されている魚種における中小規模経営体による生産額の増加も,養殖生産額の増加に寄与していると考えられる。ただし,同一の経営体規模や魚種であっても,経営体が養殖面積と単収と単価のいずれを増加させながら生産額の増加を実現しているのかは,地域間で異なっているといえる。その背景事情としては,養殖面積の拡大に影響を及ぼす漁場利用の状況や,単価の上昇に影響を及ぼす市場シェアの地域差があると推察される。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659698304
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_226
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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