中国における穀物生産・消費の地域性と高度経済成長期を通じた変化

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  • Regionalities and changes of grain production and consumption through the period of rapid economic growth in China

抄録

<p>1. 背景と目的</p><p> 中国では7,000年前頃,長江流域で稲作が,黄河流域でアワ,キビ等の雑穀作がそれぞれ始まったと考えられている.以来,秦嶺山脈-淮河ラインを境界として,伝統的に以南は稲作・米食,以北はアワやキビを中心とする雑穀作・雑穀食が中心で,北部の場合は歴史時代を通じて西方よりコムギやコーリャン,トウモロコシ等が伝わり融合した.</p><p> 中国はインディカ種(籼米)とジャポニカ種(粳米)両方の栽培がみられる特徴的な国であり,食文化にも関係するが,栽培種ごとの生産状況は不明瞭である,国内の移出入に関しても,政府統計では公開されていない.また雑穀栽培についても,現代を通じて縮小を続けてきたことは知られているが,近年は縮小とともに政府統計に記載されない傾向があり,継続的な経過把握が困難になりつつある.そこで本稿では,これまでの成果も踏まえ,国内外の諸情報と現地での観察結果から,改革開放以降の中国における穀物生産・消費の特性,変化について検討を試みる.</p><p></p><p>2. 開発品種の登録情報が示す米産地内の特性と変質</p><p> イネ・米に関して,栽培種レベルで地域性や変化を把握する際には中国水稲研究所データベースが有効と考えられる.各省で登録された品種情報を解析することで,全土を(1)籼米偏重地域(華南沿岸),(2)籼米中心地域(四川,湖北等の長江中上流),(3)籼米と粳米の拮抗地域(雲南等),(4)粳米拡大地域(長江下流),(5)粳米偏重地域(北部)に区分でき,秦嶺山脈-淮河ラインとは異なる空間特性の存在を見出せた.品種の特徴を時系列分析すると,寧夏等の北部粳米産地では1980年代以降,低アミロース化や栽培期間の長期化等が進行していることがわかった(原2022a).</p><p> 加えて,漁業統計を用いることで,新しい水田での水産養殖(イネ・水産物共作)の試みが,限定的なものの全土で広がりをみせる様子も把握できた(原2021).</p><p></p><p>3. 米の国内流通の基本構造と実際</p><p> 鄭州商品交易所の2010年代の資料によると,代表的な米の国内移出入は「北粳南運,中籼東輸,中籼南下」,すなわち東北産粳米が華北,西北,西南へ,江蘇省の粳米と華中・華南内陸の籼米が沿岸部や雲南へ,と表現される(図1).</p><p> 以上を基礎として,市場調査の結果を踏まえると,図1には書かれていない黄河上流の寧夏が,主産地として周辺地域でメソ供給圏を形成していること(原ほか2016),西北では大都市以外でも東南アジア産籼米が流通しており,籼米需要がみられること(原ほか2016),反対に華南沿岸の広東省深圳では東北産粳米が多数販売されており(2024年),一定のシェアを有している可能性等が示された.</p><p></p><p>4. 北部中低高原区における雑穀栽培の増加</p><p> 華北平原以外の中国北部の広い範囲では,1980年代以降,コムギや雑穀の播種面積が縮小し,トウモロコシやイモ類の栽培へと転換されてきたのが,全体的傾向である.</p><p> その中で2000年代半ば以降,黄土高原や内モンゴル東部を含む北部中低高原区でアワの播種面積,生産量が増加に転じている.これはアワ栽培史上の一大転換点といえるが,中心産地の一つである河北省蔚県では,県城に近い好条件の平野部で雑穀が盛んに栽培される様子を観察できた(原2022b).また,深圳のスーパーマーケットでは,豊富な品揃えで蔚県や山西等の雑穀が販売されていた(2024年).こうした展開は都市住民の健康志向の表象と示唆される.</p><p></p><p>5. まとめ</p><p> 一般に中国南部は米食,北部は麦・雑穀食と表現されるが,その実態は複雑化している.中国北部にも重要な米作地域が複数存在し,周辺地域を中心に米食化を牽引するとともに,品種や栽培方法も変化,改良されてきた.南部では北部の米食化と対象的に粳米や雑穀が受容され,北部内陸の雑穀栽培の増加へも影響を及ぼしている可能性がある.</p><p></p><p>文献</p><p>原 裕太ほか 2016. 環境情報科学論文集 30: 195-200. doi: 10.11492/ceispapers.ceis30.0_195</p><p>原 裕太 2021. E-journal GEO 16(1): 70-86. doi: 10.4157/ejgeo.16.70</p><p>原 裕太 2022a. 環境情報科学 51(4): 83-89. doi: 10.11492/eis.51.4_83</p><p>原 裕太 2022b. 雑穀研究 37: 12-20.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659712384
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_252
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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