多様な地理空間情報を活用した京町家の滅失推定に関する研究

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  • Study on the estimation of demolished <i>Kyo machiya</i> using various geospatial information

抄録

<p> はじめに</p><p>京都市は、2007年の新景観政策の実施以降、京都市内の伝統的な建物や景観を保全するための「京の景観ガイドライン」を策定してきた。中でも京都の景観を構成する京町家の保全・継承に関して様々な取り組みが展開されている。京都市は、その基礎データとなる京町家の残存状況を把握するために、1995・1996年度以降、4回にわたり、京町家まちづくり調査を実施してきた(京都市 2017)。しかし、京町家の悉皆調査は、多くのコストと時間がかかることが課題となっている。そこで、本研究では、京町家の残存状況を把握する悉皆調査の簡略化を図るために、多様な地理空間情報を活用した京町家の滅失推定の方法を提案する。</p><p>京町家の滅失推定方法 第3・4期京町家まちづくり調査の概要とGIS分析</p><p>京町家まちづくり調査は京都市、京都市景観・まちづくりセンター、立命館大学などが協力して過去、4回行われてきた。特に大規模に調査が行われた第3期京町家まちづくり調査(2008・2009年度)では、現地での外観による悉皆調査によって47,735件の京町家が特定され、それらの京町家ポイントデータが作成された(松本ほか 2011)。その後、2016年度に第4期京町家まちづくり調査(第3期京町家の追随調査)が行われ、2008・9~2016年度間で5,602件の京町家が滅失したことが確認された。</p><p>ゼンリン住宅地図の建物面積変化よる滅失推定</p><p>京町家滅失推定として、第3・4期京町家まちづくり調査で作成された京町家ポイント(当時のゼンリン住宅地図データベースZmap-TOWNIIの建物面積を含む)と最新の2023年度版 Zmap-TOWNII建物ポリゴンを重ね合わせることにより計測される面積差に着目して滅失推定を行った。両年度間のGIS上での重ね合わせによって、2023年度の建物ポリゴンと2016年度京町家ポイントの重なりは42,133件であった。残りの4,100件の京町家ポイントは、現時点では建物形状のない敷地(空地や露天駐車場など)上にあることから、2016年度以降に滅失した京町家と推定することができる。また、重なりの見られた両年度間の建物の面積差が大きくプラスになったものは、京町家が取り壊され、その後、マンションや大型施設等に変化していることが分かった(面積が30m2以上増加した建物が1,390件)。しかし、面積差が見られない建物は、京町家が存続しているのか、同規模の建物が新築されたかを判別することは難しい。</p><p>建築確認申請データの利用</p><p>次に、2016年度以降に建築確認申請が行われた建物から京町家の滅失推定を行う。建築確認申請とは建築物を建てる際に、計画や設計が法令や規定に適合しているかを指定確認検査機関等に確認する手続きである。2016年度時点の残存京町家のうち、2016年以降に建築確認申請されたものは、京町家が新たな建築物に建て替えられた可能性が高い。2016年度以降の建築確認申請数は25,850件であり、京町家の建物ポリゴンと重なるものは1,520件あり、それらの京町家は滅失したものと推定できる。そして、2.2で求めた5,490件との重複を除くと、2016年度以降、6,677件が滅失したと推計される。</p><p>京町家滅失推定の精度検証ここでは推定精度を検証するために、京都市西陣の柏野学区にある京町家(561件)を対象とした現地調査(2023年秋実施)の結果を用いる。現地調査からは、2016年度以降、88件の京町家が滅失しているが、2.の方法では59件の京町家の滅失が推定された。実際の滅失した88件のうち37件が適合したが、残りの22件は残存する京町家を滅失していると推定し、51件の滅失を推定できなかった。このような結果の齟齬は、建築確認申請をしてまだ取り壊していない場合や、ゼンリンの建物ポリゴンの経年的な変化(例えば棟続きを1つに変更)、用いた地理空間情報の作成時期と現地調査の時期との違いなどが考えられるが、より詳細な検討が必要である。</p><p>おわりに</p><p>本研究では、すでに特定されている京町家を対象に、現地調査を行わずに、既存の地理空間情報を活用して、京町家の滅失推定を行う方法を提案した。そして、柏野学区を対象とした現地調査での滅失状況と照応してその有効性を検討した。その結果、GISの空間分析を通して、ある一定の精度で京町家の滅失推計を行うことができることが明らかとなった。 今後は、Zmap-TOWNIIに含まれる表札名の変化や、京都市が所有する各建物の建築年やリサイクル法による建物解体の届出データ、空中写真判読、Google Maps Street View画像の差分分析などの情報を加えることで、滅失推定の精度をより高めることが期待される。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659715200
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_260
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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