サガルマータ国立公園におけるヤクの放牧地を通過する登山道周辺のガリー侵食・植生荒廃の分布パターン

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タイトル別名
  • Distribution patterns of gully erosion and vegetation degradation around trails passing through yak pastureland in Sagarmatha National Park, Nepal

抄録

<p>はじめに</p><p> サガルマータ(エベレスト山)国立公園は,世界自然遺産にも登録された山岳国立公園である。ヒマラヤ山脈(ネパール側)の高所で家畜の放牧を長年継続したシェルパ人の居住は特別に認められている。自動車道路のない公園内の移動には,いわゆる登山道が使われている。標高4000 m以上の高所ではヤクの放牧地を通過する登山道区間も広く分布している。観光関連物資の運搬には家畜(ナムチェ・バザールより高所では雄ヤクとゾプキョ,低所ではミュール=ウマとロバの交配種)が使われている。国立公園内の放牧地を通過する登山道区間には,ガリー侵食や登山道の複線化などの深刻な環境荒廃問題が多く見られた。しかし,この国立公園を含めたヒマラヤでは登山道荒廃に関する研究はほとんどない。本研究では,UAVによる3次元マッピングを行い,ガリー侵食・植生の荒廃問題に焦点をあて,当地域の登山道の荒廃の特徴を把握することを目的とした。</p><p>研究方法</p><p> ゴーキョの谷に行く登山ルートにヤクの放牧地が広く分布している。Machhermoは当ルートの重要な宿泊集落として知られ,登山シーズンに休憩・宿泊利用をする登山者が多く訪れる。本研究では,Machhermoに入る(ゴーキョに向かう方向)直前の約334 mの登山道区間(標高 4,400〜4,440 m)を調査対象として選んだ。2023年10月26日に,UAV(DJI社製,Mavic 3 Multispectral+D-RTK-2 GNSSステーション)を用いて,RTKモードで登山道の3次元・NDVIマッピングを実施した。撮影した写真を使い,AgiSoft Metashapeで調査地のオルソイメージおよびDEMデータを作成した。作成したDEMおよびオルソイメージを用いて,ArcMapで3D解析・NDVI解析を行った。</p><p>調査地の地形の特徴とガリー侵食の分布パターン</p><p> 図化した登山道区間は起伏の大きい地面を通っている。南に傾いている斜面が全体の8割以上で,東南方向に傾いた斜面が一番多い。傾斜が15度を超える場所を中心に深さ5〜80 cmのガリーが発達している。凸型の地面(傾斜が30度以上)に直交した区間に,平均面積約29 m2 (レンジ= 10〜44 m2)の崩れ (n = 8) が断続的に生じていた。それに対して,傾斜が小さい区間では,深さ20 cm以内のガリーが複数本並んで走っている。そのうち,幅が15 cmほどの細いガリーも多数みられた。</p><p>植生の荒廃</p><p> 登山道区間の地表面のNDVI数値のレンジは0.2〜0.5であった。保水力・浸透力が大きく低下したガリー侵食面や著しい踏圧を受ける裸地表面では,NDVI数値が0.3以下と低く,そのほかの裸地表面と枯れた牧草が残った地表面では0.3〜0.4だった。幅が15 cm以内の細いガリーを中心に,ガリー底とガリー側面で植生の回復が見られたところが多く,そこではNDVI数値がほぼ0.5に近く,調査した登山道区間内で最高値となった。ガリー侵食により,大きな崩れが生じた区間では,登山道の中央から両側につれてNDVI数値が上がる傾向が明確に現れた。</p><p>必要な登山道管理対策</p><p> 当調査地域では,地面の起伏が大きく,斜面に交わって走る登山道区間では,地表面が裸地化し,ガリー侵食もたくさん生じている。ところが,幅が狭いガリーの多くはあまり深くまで侵食されず,植生回復も進んでいる。このため,これ以上侵食する心配はない。ただし,ガリーの複線化が進んだことにより,地面が凸凹になって歩きにくくなっている。その結果,登山者の歩行が周辺の平坦な場所に広がり,頻繁に通過する区間では,土壌が強く圧密され,植生が回復できない状態になる恐れがある。このような区間では,登山者・ヤクの交通量を有効に分散させる対策を考えるべきである。一方,凸型の地表面と直交する登山道区間では,崩れた登山道のさらなる拡大を防止することが重要である。崩れた地面の補修・強化と同時に階段を入れて傾斜を小さくするような積極的な維持管理を提言する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659719552
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_270
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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