地図化されたリスク認知の空間的自己相関とその要因分析

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タイトル別名
  • Spatial autocorrelation of the mapping of risk perception and its factor analysis
  • A mixed-methods approach using GIS and qualitative data
  • GISと質的データの混合手法によるアプローチ

抄録

<p>Ⅰ はじめに</p><p> 「人々が空間をどのように認知するのか」という問いは,認知・行動地理学における重要な研究テーマである.既往研究では,計量的手法に基づいた空間認知の歪みのパターンや法則性の考察が行われてきた.しかし,従来の分析枠組みで扱われてきた人間の側面は,数量化が可能な内容(社会人口統計学的変数など)に限定されている.重要なのは,認知や行動の空間パターンを重視しつつ,その規則性がみられる背景を「個人の能動的な解釈の仕方」を通じて理解することである.そこで本研究では,COVID-19への感染リスク認知に関するケーススタディを実施し,計量的手法と質的手法を組み合わせながら個人がいかに空間を認知し,それはどのような空間パターンを形成するのか,そしてそれは何故なのかを明らかにする.</p><p></p><p>Ⅱ 研究方法</p><p> 2023年7月に東京都内の大学に通う学生80名を対象としたスケッチマップ調査とアンケート調査を実施した.これらの学生に代表される若年層は,COVID-19パンデミック時に課された行動制限から生じる社会的孤立や精神衛生上の影響を特に受けやすい.スケッチマップ調査では,日常生活においてCOVID-19への感染リスクを感じた場所を3色ペン(赤:強い感染リスク,緑:中程度の感染リスク,青:弱い感染リスク)で描画してもらった.続いてアンケート調査では,スケッチマップに描いたエリア内で実際に体験したCOVID-19への感染リスクをめぐる具体的なエピソードを自由に記述してもらった.</p><p> COVID-19への感染リスクに関する認知空間の分布パターンと個人的な感染リスクの解釈を同時に考慮するために,量的・質的アプローチを組み合わせる「混合研究法(mixed-methods research: MMR)」を用いた.MMRにはいくつかの分析デザインが存在する.本研究では「説明的順次デザイン」を採用した.説明的順次デザインとは,量的分析から開始し,統計的な有意差を明らかにした上で,次にその結果がなぜ生じたのかを説明するための質的分析を実施するデザインである.本研究では,まず量的分析として,COVID-19への感染リスクに関する認知空間の分布に対して空間的自己相関分析を実施し,統計的に有意な空間的外れ値を特定した.次に質的分析として,各ポリゴンに紐づけられたエピソードの内容をオープンコーディング法によって概念化し,空間クラスターや空間的外れ値がなぜそのように分布したのかを考察した.</p><p></p><p>Ⅲ 結果と考察</p><p> スケッチマップ調査の結果,467地点のポリゴンが東京都23区内に描画された.全ポリゴンの分布に対してGlobal Moran’s I統計量を算出すると,0.0701で弱い正の空間的自己相関をみせた(1%有意).図1はCOVID-19への感染リスク認知の局所的空間的自己相関(Local Moran's I)の分布を示している.High-High(高いリスク認知の空間クラスター)は,池袋から渋谷にかけて分布している.それらのポリゴンに紐づけられたエピソードの多くは,当該地区における「人の多さ」に言及していた.一方,Low-High(弱い感染リスク認知が高いリスク認知に囲まれている空間的外れ値)の分布は,高田馬場や中野,下北沢,目黒周辺に広がっている.それらのポリゴンに紐づけられたエピソードをみると,「池袋や新宿に比べて」や「渋谷駅ほど」といった記述が散見された.したがって空間的外れ値(Low-High)の分布は,COVID-19への感染リスクの相対的な評価に基づいており,副都心に隣接していることから比較的人口密度が低いと解釈されやすい中小規模の商業集積地区に広がる傾向があることがわかった.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659726208
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_284
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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