山梨県富士五湖地方におけるグランピング施設の進出状況

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  • Development of Glamping Resort in Fujigoko region, Yamanashi prefecture

抄録

<p>1 はじめに</p><p> 本研究では,「宿泊と飲食が提供される贅沢なキャンプ」(一般社団法人日本オートキャンプ協会)とされるグランピングに着目する。日本では2015年頃から第2次アウトドアブーム期を迎え,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大前までオートキャンプへの参加人口は増加傾向にあった。このブーム期は,漫画・アニメ作品「ゆるキャン△」の影響による若者キャンパーの増加,ソロキャンプの進展,またキャンプに対するホテルのような安らぎ・豪華さ・付加価値の追求などがあげられ(杉浦・十代田, 2022),キャンプに対するニーズや参加者層が多様化していることに特徴づけられる。グランピングは豪華なキャンプの追求という需要に合致し,宿泊施設としてのグランピング施設が近年,全国的に増加傾向にあるとされる。従来の研究では,特定のグランピング施設の運営事例,グランピング施設の国際比較,COVID-19拡大と事業展開との関連などが指摘されているが,地理学的な視点として重要なグランピング施設の進出・立地に関する分析はみられない。本研究では,グランピング施設が増加している山梨県富士五湖地方での施設の進出状況を検討する。</p><p>2 グランピング施設数の把握とその課題</p><p> グランピングの明確な定義は管見の限りみられず,宿泊施設としてのグランピング施設も明確に定義されていない。グランピング施設は,ベッドやトイレなどを室内に備えたドーム型の個室テントやトレーラーハウスなどを客室としていることが多い。公道が走行可能な車輪付きのトレーラーハウスはグランピング施設として利用されていても山梨県では自動車とみなしている。さらに,既存のホテルの敷地に別途,ドーム型テントを設置している場合もある。以上の理由から,山梨県の各自治体ではグランピング施設の立地数を正確に把握することが困難である。一方,業界団体による集計もみられるが,定義が曖昧であるゆえ,すべての施設を網羅していない可能性がある。本研究では,世界最大手の宿泊予約サイトBooking.comの宿泊施設カテゴリー「グランピング」の掲載情報と現地調査を主たる情報として施設数を把握した。</p><p>3 山梨県富士五湖地方におけるグランピング施設の進出</p><p> テレビ山梨の報道によれば,2022年時点でグランピング施設は全国に約500あるとされ,そのうち50か所が山梨県に立地し,都道府県別では最も多いという。Booking.comの「グランピング」の施設数は,全国で346,山梨県では51であった。しかしながら,掲載されている51施設のうち,同じ施設内の別の客室テントやトレーラーハウスを別個に登録している場合が多々あった。それらを施設ごとに集約すると,グランピング施設は2024年1月時点で富士五湖地方に30(富士河口湖町22,山中湖村6,鳴沢村2)あった。現地調査を加味すると,富士五湖地方には,グランピング施設が40数軒立地し,そのほとんどがコロナ禍以降の開業であった。</p><p> このうち富士河口湖町では,船津地区,河口地区,大石地区に多く立地する。船津では河口湖駅から徒歩圏内に多い。駅に近いことから外国人でもアクセスが容易である。平地に立地する場合,小高い丘を利用したり,ドームをやや高い位置に設置したりして,富士山の山容の眺望が得られるようにしている。一方,河口と大石では両地区北側の御坂山地の斜面を開発し,2021年秋から2022年までに開業したケースが多い。南向きの斜面地であるため富士山の眺望が抜群である。建設の際に山林が伐採され,土砂災害の危険があるため,住民による建設反対運動もあった。町は条例を改正し,グランピング施設などを2023年から開発行為の規制対象とした。</p><p> 富士五湖地方でのグランピング施設の建設に進出する企業は地元宿泊業者のほか,山梨県内のハウスメーカー,県外の情報通信業や宿泊施設集客業など多様である。COVID-19の拡大による新事業への進出を促す経済産業省の「事業構築補助金」を獲得し,既製品のドーム型テントやトレーラーハウスを設置すれば容易に開業できるため,異業種からも参入がみられる。オーナーが外国人の場合もある。</p><p>4 おわりに</p><p> 富士五湖地方でのグランピング施設の増加は,キャンプブーム下での参入障壁や規制の低さに基づく一時的な開発と捉えられる。事業の持続性について検討することが求められる。</p><p>【文献】杉浦佳奈・十代田 朗 2022. 英・米・日におけるグランピングの特徴と類型に関する研究. 観光研究 34(3), 59-68.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659730944
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_295
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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