中央アジア・キルギスの水環境に関する水文地理学的研究(1)

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タイトル別名
  • Hydrogeographical study on the water environment in Kyrgyzstan, Central Asia (1)

抄録

<p>I はじめに塩湖の水質特性及び蒸発濃縮による物質循環の解明は、乾燥地域や南極等、極地環境下という地理的制約を受けて、議論があまり行われてこなかった。しかし、極限下での物質反応過程は淡水湖と比較研究をする上で非常に重要であると言える。海水の影響を受けない非海水性塩湖においては気温や、蒸発濃縮過程のみならず、地質といった集水域環境の影響も受けることが示唆されている。(Renaut,1990)研究対象地域であるイシククル湖では、湖の縮小問題や氷河との関係、地球温暖化の指標として現在は注目されている。(Romanovsky,2013 など)しかし、これらの問題を解決するには、陸水学的な研究として、湖の水温構造、密度構造に伴う物質循環機構を理解しなければならない。そこで、本研究ではイシククル湖を対象に塩湖と集水域の関係性について考察を行った。II 地域概要イシククル湖は、長さ182km、幅60km、面積6,236 km²、周囲688km、最大深度668m、標高1,606m の塩湖である。水質はNa-Cl-SO4(Mg)型を示す。III 研究方法気温、水温、EC、pH を現地観測し、持ち帰ったサンプルから、TOC の測定、イオンクロマトグラフィーを使用した主要溶存成分の分析を行い、考察した。調査地点は42地点で、河川は31 地点、湖は9 地点、地下水は東部にて 2 地点でそれぞれ行った。現地調査は2012 年~2014 年夏季にかけて3 回行っている。IV 結果と考察全般的に河川はCa-HCO₃型で、その中でも湖北と湖南では、流路長が短く、溶存物質のイオン濃度が低い。一方、湖東と湖西ではイオン濃度が高く、流域特性の違いによる地質の影響の差異が認められた。SO42 の溶存量-は、河川では Na+と Cl-より卓越していたが、イシククル湖では、この二つのイオンより下回っており、湖の蒸発濃縮の影響がはっきりと表れていた。また、NO3-も、河川や地下水では検出されたものの、湖心へ近づくほど一切検出されなかった。河川水の起源は、積雪による融雪水と氷河による融氷水が大部分を占めるが、イシククル湖集水域でのNDSI解析の結果から、イシククル湖最大の流入河川は融雪水による影響が大きいと考えられる。</p><p>イシククル湖のEC と塩分濃度の結果から、湖心と湖東部(イシククル湖最大流入河川河口)の表面ではっきりと差が表れているのがわかる。湖心の表面の EC は 8585μ S/cm であるが、東部では最小で7223μS/cm と、1362μ S/cm の大きな差が生じていた。最大流入河川から湖心まで距離別に各イオンの変化を見てみると、最大流入河川の希釈の影響を受けているのは、Na+、Mg2+、Cl-、SO42-であり、イシククル湖の水質にとって重要な物質が希釈されていることがわかった。このことから、短期的にみれば河川水は、イシククル湖の塩分濃度を低下させる因子だと考えることができる。V おわりにイシククル湖は新鮮な河川水が塩湖へ流入し続ける特性がある。今後は、その新鮮な河川水が蒸発するまでの過程について研究できればと考えている。参 考 文 献A.S.Karmanchuk(2002):WaterChemistry and Ecology of Lake Issyk-Kul,NATO ScienceSeries,13,13-26</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659733760
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_301
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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