「能登の里山里海」と令和6年(2024年)能登半島地震

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タイトル別名
  • “Noto's Satoyama and Satoumi” and 2024 Noto Peninsula Earthquake
  • How local resources valued as Globally Important Agricultural Heritage Systems (GIAHS) are represented after the disaster
  • 世界農業遺産として価値づけられた地域資源は,発災後どう表現されているか

抄録

<p>Ⅰ.はじめに</p><p> 本研究の目的は,「能登の里山里海」として価値づけられてきた地域資源に対する,さまざまな思いや見方の特徴を,令和6年能登半島地震発生後のSNS上での表現から明らかにすることである.被災地の創造的復興の一助となることを意図している.</p><p> 「能登の里山里海」は,2011年6月に日本で初めて認定された1) 世界農業遺産(GIAHS:ジアス)である.石川県能登地域の4市5町(七尾市,輪島市,珠洲市,羽咋市,志賀町,中能登町,穴水町,能登町,宝達志水町)で構成されている.世界農業遺産は,2002年に国連食糧農業機関(FAO)が世界的に重要な農業地域を未来へ引き継いでいくことを目的に開始した事業で,伝統的な農林漁法,伝統技術,農村文化や景観,生物多様性などを構成要素とした「地域システム」の保全が目指されている.</p><p> 「能登の里山里海」については,金沢大学,石川県立大学,国連大学の研究者らを中心に,精力的に研究や価値づけ,地域社会との協働,アウトリーチ活動などが行われてきた.2007年からの金沢大学「能登里山マイスター」養成プログラム(現在は能登里山里海SDGsマイスタープログラム)などを通じた人材育成や地域コミュニティとの交流,拠点整備も進められてきた.また,金沢方面と能登半島とを結ぶ自動車専用道路に「のと里山海道」の名称が,能登空港に「のと里山空港」という愛称がつけられるなど,「里山里海」は能登地域の象徴として可視化されている.珠洲市を舞台とする「奥能登国際芸術祭」や,珠洲市・七尾市・輪島市の「SDGs未来都市」認定においても強く意識されている.</p><p> こうした中,令和6年能登半島地震(2024年1月1日)は石川県,富山県,福井県,新潟県など広域に被害をもたらした.中でも奥能登と呼ばれる珠洲市,輪島市,能登町,穴水町では,家屋倒壊や土砂災害,津波による浸水被害,地盤隆起による港湾等への被害,数多くの集落の孤立などが甚大であった.これらを受け,二次避難の必要性の高まりや,住み慣れた地での生活の持続の困難化,さらには山間部・沿岸部等の集落から撤退して都市部等への集住を求める議論なども生じた.地域で生きてきた人々,地域を大切に思う人々の尊厳をも揺るがす事態となっている.</p><p></p><p>Ⅱ.方法</p><p> 世界農業遺産「能登の里山里海」として価値づけられてきた主な地域資源を表す語(表1)について,令和6年能登半島地震発生後にSNS(主にX(ツイッター))上でどのように表現されてきたかを確認する.具体的には,「能登の里山里海」の世界農業遺産認定において評価された6項目(表1の「全体」以外の項目)に含まれる,主要な地域資源を示す語を対象とする.</p><p></p><p>表1 検索に用いた語の例</p><p>■全体</p><p>「能登の里山里海」「里山 能登」「里海 能登」「SDGs 能登」「satoyama noto」「GIAHS noto」</p><p>■生物多様性が守られた伝統的な農林漁法と土地利用</p><p>「はざ干し 能登」「天日干し 能登」「海女 能登」「漁 能登」「棚田 能登」「谷地田 能登」「ため池 能登」「生態系 能登」「ボラ待ちやぐら」</p><p>■里山里海に育まれた多様な生物資源</p><p>「シャープゲンゴロウモドキ」「ホクリクサンショウウオ 能登」「イカリモンハンミョウ」「希少種 能登」「生きもの 能登」「渡り鳥 能登」「中島菜」「能登野菜」「能登大納言小豆」「在来品種 能登」</p><p>■優れた里山景観</p><p>「白米千枚田」「茅葺き 能登」「白壁 能登」「黒瓦 能登」「家並み 能登」「間垣 能登」「風景 能登」「景観 能登」</p><p>■伝えていくべき伝統的な技術</p><p>「揚げ浜式」「製塩 能登」「輪島塗」「伝統工芸 能登」「炭焼き 能登」「伝統技術 能登」「いしる」「いしり」「杜氏 能登」</p><p>■長い歴史の中で育まれた農耕にまつわる文化・祭礼</p><p>「キリコ 能登」「奉燈 能登」「農耕儀礼 能登」「あえのこと」「アマメハギ」「農耕 能登」「祭礼 能登」</p><p>■里山里海の利用保全活動</p><p>「能登の里山里海」「棚田オーナー 能登」「農家民宿 能登」「春蘭の里」「農林水産物 能登」「生業 能登」「人材育成 能登」</p><p></p><p>Ⅲ.結果と考察</p><p> 発災直後は,人や物資の輸送路である「のと里山海道」という語が多く用いられていた.その後は,価値づけられてきた地域資源の被害状況を心配する声や,住民や観光経験者の思い出,そしてブランドを活かした創造的復興を期待する声などがみられる.#私の愛してやまない能登 #能登はやさしや土までも といったハッシュタグ付きの投稿も増え,地域に思いをもつ関係人口のレジリエンスを確認できる.詳細な分析結果と考察は当日報告する.</p><p></p><p></p><p>1)新潟県佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」も同時に認定された.なお,宝達志水町は2013年6月に追加登録された.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659743872
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_324
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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