福井県永平寺町における旅客輸送サービスの多様化と住民ドライバーの拡大

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タイトル別名
  • Diversification of Passenger Transportation Services and Expansion of Local Resident Drivers in Eiheiji Town, Fukui Prefecture

抄録

<p>1.研究の背景と目的</p><p> 人口減少の先行する農山村では,2000年代からの規制緩和により,公共交通の存続に向けて,コミュニティバス,デマンド型交通,サービス提供者である住民ドライバーによる自家用有償旅客運送(以下,有償運送)等,様々な旅客輸送サービスの設定が行われてきた。また,2020年の地域公共交通の活性化再生法の一部改正にみられるように,公共交通を中心とした地域の輸送資源の総動員が今日の交通計画上の課題とされている。今後,旅客輸送サービスの多様化や流動化を通じ,モビリティ空間は変化していく可能性がある。交通現象の特性からそれには地域性を伴うだろう。 本報告ではこれらの動向の予察として,農村における地域生活に密接した旅客輸送サービス(貸切バス,特定バス,デイサービス送迎等は除く)の多様化と住民ドライバーの拡大を検討する。対象地域は福井都市圏を構成する農村地域である,福井県永平寺町(94.43㎢,2020年国調人口:18,965人)とし,現地調査は2023年12月に開始した。</p><p>2.永平寺町における旅客輸送サービスの多様化 永平寺町の旅客輸送サービスは路線の輸送範囲と規模に応じて階層的に構成されている。2018年以前から存在する公共交通として,幹線となる福井市および勝山市に伸びる第3セクターのえちぜん鉄道・勝山永平寺線,それに準じて大本山・永平寺や永平寺口駅から福井市方面に伸びる京福バス路線(国または県の補助路線),町内のフィーダー路線としてコミュニティバスが設定されており,そのネットワークは結節的な構造をもつ。これらの多くは赤字経営であるが,町当局の財政負担だけでなく,住民らの参加するサポーターズクラブ(えちぜん鉄道)など様々な取り組みが展開している。また,町内にはタクシー事業者2社の運行,および国の自動運転実証事業もみられる。</p><p>こうした中,永平寺町では,議会等においてコミュニティバスへの費用対効果がしばしば問題視されてきた。そこで町当局は2019年から2022年にかけてトヨタ社の提案を参考に,住民意見も取り入れ,運行費用を抑制できる有償運送「近助(きんじょ)タクシー」をコミュニティバスの(一部)代替として町内3エリアに導入した(利用者登録制・平日の日中運行するデマンド型・300円)。他方,2020年に上志比地区の住民ボランティア・上志比地区ひまわりサポートの会は,買い物送迎(利用者登録制・月2回運行・無料)を開始した。いずれも公共交通需要の小さな地域に限定した小規模な旅客輸送サービスである。近年,永平寺町の旅客輸送サービスは需要規模に応じて多様化している。</p><p>3.旅客輸送サービスにおける住民ドライバーの拡大 永平寺町内では,2020年前後の新しい旅客輸送サービスの導入により住民ドライバーが拡大した。近助タクシーの各エリア10人前後の住民ドライバーは,地区キーパーソンの積極的な関与や声がけ等によって確保され,町の会計年度任用職として雇用されている。なお,運営統括を町当局,配車を第3セクター・まちづくり株式会社ZENコネクトが担当している。また,上志比地区の買い物送迎は,上志比地区ひまわりサポートの会のメンバー9人が高齢者見守り活動と並行し,住民ドライバーや乗降支援に従事している。 いずれの住民ドライバーも主に60歳代以上の定年退職者であり,彼らにとって運転は新たな協同,社会参加,地域課題発見の機会となっている。かれら住民ドライバーの従事により地域住民により密着したモビリティ空間が提供されている。一方,ドライバー年齢の上昇という課題に直面しており,地元交通事業者からの運行面に関する批判も聞かれる。詳細は大会発表時に明らかにしたい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659765376
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_80
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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