バンクーバー都市圏における広域政府の成立過程とその役割

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タイトル別名
  • Establishment Process of Regional Government and its Role in the Vancouver Metropolitan Area, Canada

抄録

<p>1. はじめに</p><p> バンクーバーが2000年代初頭に世界で最も住みよい都市として高く評価されてから約20年の年月が経った。この間もバンクーバーは住みよい都市の手本として,その取り組みは多くの都市の参考とされてきた。これまで報告者はバンクーバーの住みよい都市に向けた長年の空間整備の取り組みについて多数報告してきた(山下2007など)。そうした取り組みの蓄積によって持続可能で生活利便性の高い都市圏が形成されたが,他方で都市圏全体の広域調整や合意形成に基づく計画策定に果たした広域政府の役割は極めて重要であった。カナダの広域政府については生田(1999)や小野島(2010)が論じているが,バンクーバーが位置するブリティシュ・コロンビア州(以下,BC州)の今日の広域政府成立の経緯を十分には明らかにしていない。そこで本報告では,BC州における独自の広域政府制度Regional District(以下,RD)成立の歴史的過程とその役割を明らかにしたい。</p><p></p><p>2. BC州におけるRegional Districtの成立過程</p><p> BC州の自治体法(Municipal Act)においてRDが制定されたのは1965年であるが,そこにたどり着くまでには50年近い試行錯誤があった。20世紀初頭,BC州では8割の人口が居住する市町村の自治体面積が広大な州の領域のわずか2%未満の状況で,都市に隣接する未編入地域での無秩序な成長と自治体サービスの無償利用,地元代表が存在しないことが懸案事項となっていた。BC州では自治体に義務付けられている行政サービスは地方道路の建設・維持と警察のみで,それら以外は任意である。1920年代よりBC州では未編入地域に灌漑用水を提供するサービスとして改良地区Improvement Districtの制度が導入され,十分な成功を収めた。また未編入地域だけでなく,複数の自治体が一部の自治体サービスを共同で提供できるよう,1946年より学校,病院,図書館など広域的課題ごとに特定目的地方政府としてのDistrictを設置している。これらは,自治体の自主性を尊重するBC州独自の高度な地方自治権の基礎となった。未編入地域での行政サービスは,1947年に設立されたBC州の自治体問題局(DMA)によって一元的に取り組まれたが,地域性の差異が大きく限界があった。1950年代には,バンクーバーでも大都市政府の導入が検討されたが,すでに高度な地方自治権が確立したBC州の地方自治制度とは両立せず,見送られた。そこでBC州はこれまでの自治 体の機能は存続させながら,複数の自治体や未編入地域が相乗りできる「空の船」として州の領域をカバーする29のRDを設置した。RDは取り組む広域レベルの行政サービスを参加自治体・地域の相互の合意に基づいて決定する,緩やかな連邦制の組織として導入された。</p><p></p><p>3. バンクーバー都市圏における広域政府の成立過程とその役割</p><p> バンクーバーをふくむフレーザー川流域に最初の広域組織としてのローワーメインランド広域計画協会(LMRPA)は1937年に設立された。これは地域計画への意識と支援を高めることを目的とした,研究者と計画推進者のグループの集まりであった。1948年のフレーザー川の洪水を契機に,広域的な防災計画の必要性が高まり,同年の都市計画法改正で州内すべての地域に広域計画委員会の設立が進められ,1949年に州はローワーメインランド広域計画委員会(LMRPB)を設立した。この委員会の政策提案の多くが,地域の自治体に採用されることはなく,その役割を十分に果たすことはできなかった。1965年にRDが制度化されると,ローワーメインランド地域にはバンクーバーを中心としたGVRD(2017年にMVRDに改称)をはじめ,4つのRDが設立された。バンクーバー都市圏の市街地拡大にともない,1995年にローワーメインランド地域のRDは2つに再編統合された。 参加自治体の首長らが理事を構成する今日のMVRDが提供する行政サービスは,上下水道,廃水処理,固形廃棄物管理など地域の公益事業サービスの計画および提供と,大気質の規制,気候変動対策,広域計画の策定,地域公園システムの管理,公営住宅の提供,地域経済開発のためのリーダーシップ・サービスなど多方面に拡大しており,その地域での役割は極めて重要になっている。これらの取り組みはMVRDの自治体・地域のそれぞれが必要に応じて参加することが可能になっている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659768320
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_86
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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