討論会のこれから

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  • 飯村 兼一
    コロイドおよび界面化学部会 令和5、6年度副部会長 宇都宮大学

抄録

<p>この春は、本学のキャンパスでも、穏やかな日差しの下、桜の木々の周りにシートを敷いてお花見を楽しむ家族連れや学生達、芝生の上を元気に走り回る子供たちの姿が見られました。そんな‘いつも通り’の光景を見ていると、新型コロナ感染症による社会的な混乱や様々な制限があった頃が遠い昔のことのようにも感じますが、私が討論会委員長を仰せつかっていたのはまさにその頃でした。本稿では、コロナ禍での討論会開催の経緯や最近の部会内での変化を踏まえて、討論会からのこれからについて少し考えてみたいと思います。</p><p>皆様もご存じのように、コロイドおよび界面化学討論会は、本部会の最も重要な行事の1つであり、実行委員長をお引き受け下さった先生の大学で例年9月に開催されています。現在私は、担当副部会長という立場で討論会委員会に携わっていますが、2019~2022年度は同委員会の委員長でした。新型コロナウィルスの感染者が国内で初めて確認された2020年1月の時点では、2019年11月のOkinawa Colloidsで一気に高まった部会の国際化の勢いをそのまま2020年9月開催の東北大学での第71回討論会につなげようと準備を進めているところでした。しかし、その後の急激な感染拡大を受け、ちょうど今と同じ季節の頃には、中止または延期にするか、あるいは何らかの形で開催するか、開催するとしたらどのような方法があり得るかを、今後の見通しが全く立たないまま、当時の部会長の河合武司先生をはじめ関係者の方々と模索しておりました。最終的には、オンライン開催となった訳ですが、オンラインとは言っても、今ではすっかり使い慣れたZoomやTeamsなどのWeb会議システムは当時はそれほど浸透しておらず、所属先によって使用可否の違いもあったことから、多くの方々が確実に参加し、発表や質疑応答ができる方法ということで、一般発表はConfitのスライドファイル発表とコメント機能を使った発表・討論としました。一方、部会報告や総合講演、科学奨励賞受賞講演、シンポジウムについては、やはり多くの参加者に講演を見て頂きたいということで、オンライン開催決定後に急速に普及したZoomを用いた発表・討論に切り替えて実施しました。</p><p>新型コロナ感染症の感染拡大は、その次の年も収まることはなく、もともと広島大学で開催するとしていた第72回討論会(2021年9月)は、当時の出口茂部会長の「オンラインだからできること」(を考えて有意義な討論会にしましょう)を合言葉に、オンラインでの開催となりました。この時には、Web会議システムが世の中にすっかり浸透していたことと、準備時間の点でも前年に比べると比較的余裕があったために、全てのセッションをZoomを用いた発表・討論として実施することができました。また、オンラインだからできることの一つして、市民講座「新型コロナ感染症対策とコロイド・界面化学」もオンライン・無料で開催しました。次の世代を担う若い人たちにも聴講して頂きたいという企画側の期待通り、全参加者160人のうち、約半数は10代と20代の若い世代の方たちでした。また、一般参加者として登録された人数は6割に達しました。国際セッションも、世界中から多くの講演者が参加して下さり、3つのルームでのパラレル開催で延べ35件の発表が行われました。</p><p>第73回討論会(2022年9月)は、当初、前年に実施できなかった広島大学での対面開催として計画しておりましたが、変異株の出現や感染拡大の波が繰り返されていたことから、口頭発表については、現地参加でもZoomによるオンライン参加でも可とするハイブリッド方式(感染状況次第でどちらでも参加可)とし、ポスター発表については、対面発表の場合にはソーシャルディスタンスを保てなくなるため、オンライン発表・質疑応答のみとして実施しました。オンライン参加はもともとはコロナ対策として導入した訳ですが、ご家庭あるいは仕事上の都合などで現地参加が叶わない方がオンラインに切り替えて参加されておりました。また、討論会初日の前日にかけての台風14号による影響で現地参加が困難となった方々、あるいは最終日翌日に近畿・東海地方に接近した台風15号による影響を危惧して予定を変更された方々も多くおられましたが、オンラインでの参加・発表への変更により対応することができました。</p><p>第74回討論会(2023年9月、信州大学)では、新型コロナ感染症の感染拡大はだいぶ落ち着いていたものの引き続き警戒を続けるべきであったことや、出口前部会長や酒井秀樹現部会長が以前の本誌巻頭言で述べられているようにコロナ禍で培った新しいシステムや価値観を部会運営に生かしてゆくという考え方から、飯山拓討論会委員長の下、ポスター発表については現地発表、口頭発表については原則として現地での対面発表としつつオンライン参加も可とするハイブリッド方式で実施されました。天候にも恵まれ、久しぶりのほぼ制約がない現地開催での討論会ということで、多くの方が現地参加の醍醐味を実感されたものと思います。一方で、海外からの参加者や諸事情のために現地参加が難しい方々によるオンライン参加も見られ、ポストコロナでもオンラインだからできることを続ける意義を感じました。</p><p>以上、最近の討論会について、開催の経緯や実施方法を中心に紹介しましたが、コロナ禍が討論会にもたらした最も大きな変化は、言うまでもなく、オンライン会議システムを利用した参加方式を取り入れたことでしょう。オンライン会議システムの便利さや手軽さは皆さんご存知の通りで、ポストコロナの時代にあっても、天災や職場・家庭の諸事情により、あるいは海外在住のために現地参加が難しい方などのためにオンライン参加の道を維持してゆくことは、部会として必要なことであると思っています。しかし一方、運営側の立場としては、オンラインのみでの開催ならまだしも、現地参加とオンライン参加のハイブリッド方式となると、諸々の準備や経費、設営の点などで大きな負担がかかることも事実です。また、スクリーン越しに発表したり会話をする時の何となく味気ない感覚や、現地で顔を合わせて議論を交わしたり交流を深めたりすることの大切さも実感するところではあります。本部会には、一昨年、懸橋理枝先生を長としたDEIR(Diversity, Equity, Inclusion and Respect)委員会が発足しました。ポストコロナの時代を迎え、DEIR委員会が活動を始めた今は、討論会の意義やDEIR的な観点、運営・予算的な負荷などを関係する委員会の先生方と総合的に検討し、どのような形での討論会開催が参加者にとって望ましく、部会の活性化や若手研究者の育成、コロイド界面化学分野の発展に寄与できるのかを見つめ直す必要があるように思います。第75回討論会は、2024年9月に、東北大学で蟹江澄志先生を実行委員長、飯山拓先生を討論会委員会として開催されます。可能な範囲で色々な可能性を試しつつ、持続的で意義の高い討論会の開催につなげていきたいと考えています。</p>

収録刊行物

  • Colloid & Interface Communications

    Colloid & Interface Communications 49 (2), 1-2, 2024-05-10

    公益社団法人 日本化学会 コロイドおよび界面化学部会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390863041926277120
  • DOI
    10.57534/cicommun.49.2_1
  • ISSN
    27585379
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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