Creation of the History of Sattvaloka in Indian Buddhism

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  • インド仏教における「衆生世間の歴史」構築

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あらゆる生き物、衆生(サットヴァ)は、歴史という大きな縁起の流れの中に生きている。地上の劫初の衆生の歴史を説いた経典として、インド仏教の初期聖典『アッガンニャ経』がある。 その経では、衆生たち(人類)が地上世界の始まりの時期に経験した、神話的な性格が強い歴史的出来事の物語が説き示される。その神話的な歴史物語の語りの部分が説法の中核部をなしているが、神話学から見れば、その物語は古代のインド仏教徒が信じる「人類文化起源神話」と見なすことが出来よう。ただしそこで語られているのは自然な形での神話ではなく、仏教サンガにより人工的に作られた、擬似的神話なのであるが、仏教徒の共同体はその太古の出来事の物語を真実と考え、信じたのである。私は便宜上その物語を「アッガンニャ神話」と呼びたい。アッガンニャ神話は次の二つの大きなテーマを柱とする: /  ①4つのヴァルナがいかに成立したかを語る。 /  ②衆生が生きるための食用植物がいかに誕生し、いかに劣化していったかを語る。 /  もともと、バラモン教の4ヴァルナ起源神話に対抗するために、①のテーマについて仏教の立場から真実を説くのが経の目的なのであるが、衆生が①の段階に至る歴史的プロセスを説明するために、その前にある②の段階をきちんと教示する必要があった。 /  ②においては地上の衆生たちの「衣食住の文化の起源神話」と、稲という穀物が最終的に出現するまでを語る「穀物起源神話」、そして「最初の王権の誕生神話」が説かれている。その最初の王権の誕生が、①のテーマの「4ヴァルナの成立」の出来事につながってゆく。 /  アッガンニャ神話の前半にある太古の食物起源神話(原初の食物から稲の出現まで)は、その語りの原材料として何か元になった古い神話伝承(原神話)が背後にあるように思われる。当時東北インドの稲作の文化圏で民衆に知られていた原神話を仏教の世界観・価値観に合うように変えて、民衆が納得できるかたちでの「歴史」に表現し直したのであろう。 /  それに対して、アッガンニャ神話の後半部分(稲の変化の出来事以降)は、何ら原神話のような素材を必要としない純粋な創作であるように思われる。稲の誕生から最初の王権の成立までの語りは、仏教教団の堕落史観に基づいて、稲の所有が家や田や所有財産への執着となって人間を堕落させ、不善の生き方が次第に世に現れていったことを順序立てて語るものであり、出家者の戒律的な生活を理想する価値観を「衆生の歴史」という仮想の歴史に投影することで作られたものとして、悪化する時代の流れを極めて論理的に説く。 /  本論文においては、アッガンニャ神話の前半の内容を、「元となる神話があったとすればそれはどういうものであったか」という視点から考察し、またアッガンニャ神話の後半部分については、「出家者の戒律的価値観がいかに仮想の歴史として投影されているか」という視点から考察して、地上世界の最初の歴史のプロットがいかに構築されたかを推測した。

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