現代的な地方自治の課題に対する地理的枠組みの探究
書誌事項
- タイトル別名
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- Exploring geographical frameworks for contemporary local governance issues
- ―ローカル・ガバナンスにおける地域とは何か?― (趣旨説明)
説明
<p>1.本シンポジウムの趣旨</p><p> 1990年代後半より進められた大規模な地方行財政改革から,20年以上が経過した。この間,地方圏では市町村合併の進展とともに,人口減少や少子高齢化の進展,地方自治体の行財政改革の進展といった中で,「地域」や「圏域」等の地理的含意を含む語句を用いた活動が進められている。また,地方自治の様々な分野では都道府県や市町村の行政のみならず,住民や地縁団体,非営利組織,企業等も関わる中,ローカル・ガバナンスの考え方が普及しつつある。</p><p> しかし,「地域」や「圏域」などの用語は,その用語や用法において一貫性をもつものではなく,省庁や計画などにより広域・狭域で様々な単位が念頭に置かれている。基礎自治体である市町村についても,合併による広域化が進むとともに,意思決定における様々な地理的単位の設定が進められている。また,地方自治体の将来像を展望した自治体戦略2040構想(2018年)では,都道府県と市町村を跨ぐ圏域マネジメントが提唱されている。このような様々な地域をめぐる形態の出現を,加茂(2017:59-62)は「社会空間の錯綜(スクランブル)」と称している。</p><p> 地方自治が展開される地域の単位について,政治学で言及が始まっているが(曽我2016,砂原2022),地理的単位に関する含意は乏しい。本シンポジウムでは,地方自治を取り巻く社会的な変化の中で,地域を指す地理的枠組みの構築の実態と,その含意について検討する。そして,実態を踏まえた議論をベースにしつつ,地理学から地方自治における地域概念をどのように構築できるか,学際的な交流とともにその貢献可能性について議論したい。</p><p> 本シンポジウムでは,ガバナンスを捉える枠組みとして,主体の交渉を通じた地理的単位の出現(山崎2013)という地理的スケールの議論を念頭に置く。そして,地方自治の中でも市町村行政単独の運営から移行がみられる現代的な課題を取り上げ,①現実にどのような地理的単位を軸にした運営や意思決定が繰り広げられるようになったのか,②出現しつつある地理的単位に根ざした活動への移行において,関与しうる様々な主体はどのように相互に合意形成や交渉を実施してきたのか,の2点より「地域」を捉える。本シンポジウムでは,様々な出現する地理的枠組みとして,市町村よりも狭い活動範囲を念頭に置く狭域化,市町村よりも広い活動範囲を念頭に置く活動の広域化,市町村以外の様々な階層を通じた意思決定や運営が行われる多層化という3つの動きを軸に検討したい。ただし,これらの動きは独立して起こるものでなく,同時並行的に出現している点にも留意が必要となる。</p><p>2.本シンポジウムの構成</p><p> 本シンポジウムでは,ローカルを便宜的に国家よりも狭い範囲として設定する。本シンポジウムの各報告では,制度改革や,社会経済的な環境の変化の状況を踏まえ,従来市町村が中心的な役割を担い,地理学でも着目されてきた公共サービスや,住民を中心とした自治上の意思決定,人口対策といった多様な分野について,「地域」の出現やその特徴について検討していく。各報告では,少子高齢化や人口減少,地域経済の疲弊化が進み,全国に先んじて様々な諸課題が生じている地方圏の事例を中心に扱っている。</p><p> 実態報告に加えて,当日は国土政策等に関わる地理学研究者の立場や,政治学の研究者からのコメントや論点提示を行う。報告や議論を通じて,地理学から地方自治における地域を検討する意義や貢献可能性を展望していきたい。</p><p>文献</p><p>加茂利男 2017.『地方自治の再発見―不安と混迷の時代に―』自治体研究社.</p><p>砂原庸介2022.『領域を超えない民主主義―地方政治における競争と民意―』東京大学出版会.</p><p>曽我謙悟 2016.縮小都市をめぐる政治と行政―政治制度論による理論的検討―.加茂利男・徳久恭子編『縮小都市の政治学』岩波書店:159-182.</p><p>山崎孝史 2013.『政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけて―』ナカニシヤ出版.</p><p>本シンポジウムは,JSPS科研費(課題番号20H01393)の助成を受けて実施するものである。</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2024a (0), 103-, 2024
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390864634468307328
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可